■今回の問題は業界再編のきっかけになるやもしれない
国交省としてもトヨタ自動車の子会社である日野を潰す気はさらさらない。が、三菱自動車の排出ガス不正や日産自動車、スバルなどの完成検査不正で全メーカーに体制の点検を求め、問題なしという報告を受けたにもかかわらず、こんな問題が出たというのは監督官庁のメンツ丸潰れ。
「ふたたびお墨付きを与えるうえでの審査は相当厳しいものになるだろう。これを機にいすゞ自動車と日野の経営統合などの業界再編が起こってもおかしくない」という見方が業界内でも支配的である。
日野の不正は相当前から行われていたということだが、2018年には北米で社内から不正を指摘する声が上がり、調査が行われていたという。それから4年もの間放置されたということになる。
■今回の不正が明るみになったきっかけは
この不正の公表に踏み切ったのは小木曽聡社長。元トヨタのエンジニアで第1世代「アクア」の開発責任者を務め、トヨタ専務役員、トヨタグループの部品メーカーであるアドヴィックスの社長などを歴任した人物だ。
日野の社長に就任したのは昨年だが、今になってみると、この不正の膿出し、ひいては業界再編の仕掛けを託されての人事であったとも考え得る。
小木曽社長は今年3月、オンライン会見で不正が起こった背景を説明した。大型車用ディーゼルエンジンの排出ガス、燃費規制は世界的に厳しくなる一方、自動車メーカーはどこもその規制をコスト競争力を維持しながらクリアするのに苦心惨憺している。
そのようななか、日野の開発陣は新型車の発売までに要求をクリアすることができなかった。そのことが従業員を不正に走らせたというのだ。
■不正を起こした原因は現場に対する「プレッシャー」?
が、ここで疑問が起こる。間に合わなかったことは企業としては大打撃だが、起こってしまったことはしかたがない。新商品の発売を潔く延期すればこのような問題は起こらなかったはずだ。
なぜそうしなかったのか。それを解き明かすキーワードが、会見で小木曽社長が幾度も口にした「プレッシャー」だ。
「やっぱりそれかと思いました。クルマは数万点の部品を寄せ集め、間違いなく製造しなければならない製品。一糸乱れぬ統率が求められるということで、商用車主体、乗用車主体を問わず基本的にどのメーカーも前時代的な体育会系の体質を持ち合わせています」
乗用車メーカーの幹部は語る。
「体育会系という体質は統率という点では非常に有利なのですが、一歩間違えるとパワハラに直結します。間に合いませんと言っても『ふざけるな。期日までに何とかしろ。コストをかけることは許さん』と上司に突っぱねられたら部下は対処法がなくなり、どうしたらできたことにできるかということを考えはじめます。いや、もしかするとパワハラが常態化していて、開発途中の段階で難航を報告できなかったのかも」
■開発責任者さえ隠ぺいを見抜くのは難しい
実はこのような事例は自動車業界ではさほど珍しいことではない。過去に起こった不祥事の多くは「上に言えなかった」ことに起因している。
前述のように自動車は数万点の部品を組み合わせて作る複雑な商品であるうえ、最近はハイテク化でエンジン、変速機、車体、シャシー、電装品など分野ごとの専門性がきわめて高くなっている。ある分野で隠ぺいが行われても、開発責任者ですらそれを見抜くのは難しいという。
海外では2015年にVWのディーゼルエンジンの排出ガス不正が世界的に話題になったが、それも末端の情報隠ぺいを上が見抜けなかった典型例のひとつである。
コメント
コメントの使い方