■未だはびこる自動車メーカーの古い悪しき体質
別の乗用車メーカーのベテランエンジニアも、社内ではパワハラで上司、あるいは力を持っている部署に言うべきことを言えないといったことは日常茶飯事だと語る。にもかかわらず、そのメーカーは現時点では法令に触れるような不正は起こしていない。
「日野さんはプレッシャーが不正の原因としていますが、自動車メーカーならどこでもパワハラがある。なぜウチが今のところ不正を起こさずにいられるかは、パワハラの有無ではなく、組織の形態によるところが大きいと思います。エンジンひとつ取っても設計と測定は権限を持っているところが別だったり、ひとつの部署で業務が完結するということがない。法令にかかわるような部分では不正どころか過失が露見しても他部署が出世競争で優位に立つための格好の攻撃材料にしてきますから、みんな真剣ですよ。絶対に揚げ足を取られないようにしています。法令に関係ないところについてはユルユルで、いくらでもごまかしがありますから」
これらの証言に鑑みて、日野の不正は自動車業界にはびこるパワハラと、会社の規模が小さくてひとつの部署の権限が大きくなりがち、というふたつの条件が重なったことによって起こったと考えることができる。
■どうすれば不正の起きない組織を作れるか
再発防止策として手っ取り早く実行可能なのは、ひとつの業務をひとつの組織で完結させないことだ。スバルは日野と同じく小規模メーカーであることが裏目に出て完成検査不正を起こしたのをきっかけに、モノづくりと品質管理を別組織に分けた。
スバルの中村知美社長は「仲間がやったことを仲間がチェックすると、どうしても甘くなる」と、組織改正の意図を説明していた。相互監視がしっかり機能するようにすれば、社長が「不正があってもいい」とでも言わないかぎり、日野のような問題は起こらないだろう。
が、そういうやり方に頼り続けるのは、それはそれでリスキーだ。権限の細分化は組織の縦割りを助長し、硬直化を招いてしまう。21世紀もあと少しで四半世紀が過ぎようとしている今、日野にかぎらず自動車業界全体がこれまで是としてきた上意下達の体育会系気質を変えていくことにいい加減取り組んでもいい時期が来ている。
仕事をサボってトラブルが生じたというならサボった従業員の責任だが、従業員がベストを尽くしてなお思うような結果が得られなかったのなら、それは会社の実力が足りないためであり、その実力を無視した夢想的な経営計画を立てた経営者が悪いのだ。さらには部品メーカーと完成車メーカー、子会社と親会社といった企業間でも無茶な要求を出すことがあってはならない。
とどのつまり、自動車業界に求められているのは経営の近代化なのだ。日野の型式指定取り消しを一社の問題として片づけず、すべての自動車メーカーや部品メーカーが我がことと思って改革に取り組むべきだ。
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