世の中には「珍車」と呼ばれるクルマがある。名車と呼ばれてもおかしくない強烈な個性を持っていたものの、あまりにも個性がブッ飛びすぎていたがゆえに、「珍」に分類されることになったクルマだ。
そんなクルマたちを温故知新してみようじゃないか。ベテラン自動車評論家の清水草一が、往時の体験を振り返りながら、その魅力を語る尽くす当連載。第9回目となる今回は、名車スイフトのDNAを受け継ぎながら販売はあまり振るわなかったスズキ スプラッシュを取り上げる。欧州仕様と日本仕様の差とは?
文/清水草一
写真/スズキ
■同じくスイフトベースのSX-4と比較してみると?
スズキは時として、「日本の需要を無視してないか?」と言いたくなるような、ハードルの高いクルマをリリースする。スプラッシュはその典型だった。
スプラッシュが販売されたのは、2008年から2014年まで。スズキのハンガリー工場で生産・逆輸入し、日本の工場で整備したのち販売していた。逆輸入車は往々にして値段が高くなるものだが、スプラッシュは123万9000円のワングレード(導入当初)。当時の水準からすると、安くはないがそれほど高くもなく、良心的な値付けだった。
スズキはスプラッシュ投入の2年前、同じく欧州向けにフィアットと共同開発したSX-4(初代)も、日本に導入している。
SX-4のデザインは、あのジウジアーロ氏率いるイタルデザイン。自然体ながらセンスが光るデザインだったし、走りはまさに欧州の小型車そのもの。しっかりした足まわりは路面をつかんで離さず、どこまでも走って行けそうだった。
私はSX-4が大好きになった。このお気楽なのにしっかりした走行感覚はスバラシイ。同業者も口を揃えて「いいクルマだね」と評価した。クルマのプロが絶賛するクルマは、大抵あまり売れ行きがよくない。SX-4の売れ行きもずっとイマイチではあったが、しかしSX-4は、日本国民誰にでも、自信を持ってすすめられるクルマだった。
スプラッシュも、SX-4と同じく2代目スイフトをベースにした小型車だ。これは間違いなく期待できる。少なくともクルマ好きには絶対に刺さるはず。そう思って試乗したが、乗った瞬間「うーん……」となった。
SX-4の足まわりは、前述のように「しっかり路面をつかんで離さない」だったが、スプラッシュンのそれは、「しっかりしすぎていて、中低速では拷問レベル」(個人の感想です)だったのだ。
セッティングの方向性は同じだが、スプラッシュンはSX-4よりはるかにコンパクトで、ホイールベースも140mm短い2360mm。あまりにもサスペンションが固く、シートもドイツ車的に非常にしっかり固めだったため、ドライバーは路面から常に強い突き上げを食らった。
クルマ好きとしては、この欧州車的な乗り味を「乗り心地が悪い」とは言いたくなかったが、乗っていると激しく内臓が揺さぶられ、耐えられなかった。これはさすがに、日本国民全員にはすすめられない。いや、ほとんど誰にもすすめられない。なにしろクルマ好きの私でも「こんなの無理!」と思うくらいだったのだから。
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