■CVTだったトランスミッションの罠
欧州仕様をそのまま売ってくれ! というのは、クルマ好きにとって長年の願いだった。スズキは2代目スイフトでそれをほぼ実現してくれたが、国内工場で生産されたため、それでもまだ日本仕様は欧州仕様よりは若干ソフトだった。
SX-4も同様だ。その点スプラッシュは、ハンガリー工場製。直輸入の欧州車だ。「待ってました!」と喝采した私だったが、実車に試乗して、沈黙するしかなかった。
日本人は、日本の道路舗装の質を「いい」と信じている。「欧州には石畳があるからキツイらしい」と思っていたりもするが、実態は逆で、日本は低速走行(一般道の制限速度は一部を除き60km/hが上限。欧州は一般道で100km/h、高速道路で130km/h制限が標準)を前提にしているから、舗装に意外とデコボコが多いし、高速道路にはジョイントもある。
あのジョイントは、大地震の揺れを逃がすためのもの。地震がほとんどない欧州には、ああいうものもない。欧州ではちょうどいい足まわりでも、日本ではさすがにムリ! というケースはある。
スプラッシュには、もうひとつ残念な部分があった。日本向けは、ミッションがCVTのみだったのだ。
エンジンは欧州同様、直4の1.2L(88馬力)。スズキらしい実用本位のいいエンジンだったが、CVTを介すると、どうしてもダイレクト感は損なわれる。SX-4はトルコン4ATだったので不満は感じなかったが、このスポーティすぎる足まわりとCVTの組み合わせは、クルマ好きにはチグハグとしか言いようがなかった。タコメーターがないのも残念だった。
ハードな足まわりを好むクルマ好きにとって、当時のCVTの「ラバーバンドフィール」は問題外。これでタコメーター付きのMT仕様があれば、超マニア受けな珍名車になっただろうが、CVTがその道も閉ざしてしまった。
■日本で販売したスズキの勇気を讃えたい!
このように、実際に乗って「……」となると、デザインも魅力的には見えなくなってくる。いかにも欧州のコンパクトカーっぽい、思い切りのいい造形で、足元はガバッと大地を踏ん張りつつ、カキーンと高めの全高で居住スペースを稼いでいるが、強めの前傾姿勢や「く」の字に折れ曲がったようなリアを見ると、「思い切りがよすぎないか?」と言いたくなってきた。
スプラッシュの販売は低迷を極めた。たまに街で走っているのを見かけると、大抵営業マンらしきスーツ姿の男性が運転していた。それを見て私はつい、「ああ、かわいそうに」と思ってしまっていた。スプラッシュを、この低速環境下で走らせるのは、かなりの苦行だろうなぁ、と。
しかし我々は、日本の需要を無視してスプラッシュを販売したスズキの勇気を称えこそすれ、非難する気は毛頭ないし、現在でもスプラッシュを愛してやまない超硬派なカーマニアは、少数ながら存在する。が、いかんせん、硬派すぎた。スプラッシュは惜しいクルマだった。MTの設定さえあれば……。
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