最近の車に乗って、ふとシフトレバー周辺を見渡すと、かつては存在しなかったボタンやスイッチの類を見かけるケースが増えた。最新モデルの多くは「エコ」や「スポーツ」など、複数の“ドライブモード”を持っていて、ワンタッチで車の乗り味を変えられる。そのモード切替えを担っているのが、件のボタンやスイッチというわけだ。
現代の車は、エンジン制御やアクセル(=電子スロットル)、ステアリング(=電動パワステ)、車種によってはサスペンションの硬さ・味付けに至るまで電子制御化が加速。
ソフトウェアに手を加えれば、比較的低コストで車の乗り味を変えられるようになり、電子制御を利用した複数のドライブモードを持つようになったという背景がある。
では、実際にボタンひとつで車の乗り味はどれだけ変わるのか? 実は乗り味が激変する車もあれば、意外と変わらない車もあるなど、その“変化度合い”はさまざまだ。
文:永田恵一
写真:TOYOTA、編集部、NISSAN、BMW、HONDA
どこが変わってどう違う? “ドライブモード”の仕組み
まず一例として、新型カローラスポーツ G“Z”にオプション設定されるAVS(可変ショックアブソーバー)装着車を題材に、ドライブモードの仕組みを紐解いていきたい。
変化する部分は【図】のとおり、アクセルレスポンスやエンジンの回転域といったパワートレーン制御、ステアリングの重さ、サスペンション(ショックアブソーバーの硬さ、味付け)、エアコンの4つ。
ドライブモードは、走りの穏やかな順から「エコ」、「コンフォート」、「ノーマル」、「スポーツ」、「スポーツ+」の5つが選べる。
各部の調整段階は、パワートレーンが穏やかな加速、標準、鋭い加速の3つ、ステアリングは標準とスポーツ制御の2つ、サスペンションは標準、滑らかな乗り心地、スポーツ制御の3つ、エアコンが燃費優先と標準状態の2つ。
これらの各ドライブモードを性格に合わせて組み合わせているのが、ドライブモードの正体である。
「各部分に調整段階があるなら、エコモードのサスペンションをコンフォートの調整にして、車を一番穏やかな設定にしたい」という声に応え、最近では“カスタム”などのモード名で、各部分を個別に変更できる車も輸入車を中心に増えている。
ドライブモードで激変する国産スポーツ
■ホンダ NSX
スーパーカーでありながら前輪に2つ、後輪に1つのモーターを持つSH-AWDのハイブリッドカーNSXは、調整可能な部分が多く、走行モードもエコモード的な「クワイエット」、デフォルトとなる「スポーツ」、ワインディングロードを常識的な範囲で気持ちよく走りたい時用の「スポーツ+」、サーキット用の「トラック」モードの4つが選べる。
各モードの代表的な変化は以下のとおり。
・クワイエット:EV走行やアイドリングストップの頻度が増える
・スポーツ:各部分が標準状態
・スポーツ+:ワインディングロードに合ったSH-AWDと駆動特性、早めのシフトスピード、ステアリングは重め、サスペンションはスポーツ走行向け、VSAの介入は強め
・トラック:タイムとコントロール性を重視したSH-AWDと駆動特性、最速のシフトスピード、ブレーキはしっかり感を重視、VSAの介入は弱め、ロケットスタート可能なローンチコントロールモードが選択できる
このように、モードの性格に合った各部の設定となり、走行シーンに合った乗り味を選べる。
■日産 GT-R
GT-Rはドライブモードというよりも、トランスミッション、サスペンション、VDC-R(横滑り防止装置)が、それぞれ3つのモードからスイッチで個別に選択できる。各モードは、スイッチ毎に以下のように変化する。
・トランスミッション:「セーブモード」(エコモード的にパワーは抑え目、アクセルレスポンスも穏やかと雪道での走行にも有効)、「ノーマル」、「R」モード(シフトスピード最速)
・サスペンション/「コンフォート」(快適な乗り心地)、「ノーマル」、「R」モード(減衰力を上げ=硬い、大きな力が掛かるサーキット走行に最適)
・VDC-R/「オフ」(ぬかるみなどからの脱出用)、「ノーマル」、「R」モード(スポーツ走行用に4WDをタイム重視に設定、ローンチコントロールを使ったロケットスタートも可能)
GT-Rは、ボタンひとつならぬ、ボタン3つで、走行シーンに応じたきめ細かい設定が可能だ。
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