パクリ? コピー?? …と思ったら実は「正規品」だった複雑な事情をもつ中国車たちと見分け方

■名門デリカスペースギアの独自進化版も

 現在も製造・販売されている乗用車で、先ほど紹介した海獅王のような複雑な生い立ちを持つクルマもいる。それが東風風行の「菱智M5」と、商用バンの「菱智V3」だ。

 まずはこのクルマのデザインを見てほしい。フロントにはトヨタ ヴェルファイアのエッセンスを感じられる。そしてリアは、どこか懐かしい「スーパー・プレジャー・RV」を思わせる、三菱 デリカスペースギア特有の横長なテールライトが確認できる。この時点でかなりの怪しさ満点と思うかもしれないが、このクルマも100%パクリとは言えない事情があるのだ。

東風風行 菱智(3度目のマイチェン)
東風風行 菱智(3度目のマイチェン)

 東風風行とは、中国での「国営ビッグ4」にて3番目の規模を誇る「東風汽車」のブランドの一つ。広西チワン族自治区柳州市に本拠地を置く東風汽車の子会社「東風柳州汽車」が「東風風行」を展開している。そこが製造・販売しているベストセラー車種の一つが、ミニバンの「菱智」シリーズなのである。

東風風行 菱智(マイチェン前)
東風風行 菱智(マイチェン前)

 なぜデリカスペースギアのような見た目を持つクルマが中国で生産されているのか。その理由は、台湾における三菱の歴史を紐解くことで理解できる。三菱は1970年に台湾の中華汽車と提携関係を結び、台湾での三菱車の生産を開始。デリカスペースギアもその例外ではなく、台湾では日本での販売が終了した後の2009年まで生産が続けられていた。

 東風汽車のパートナーがその中華汽車であった。東風汽車は中華汽車からデリカスペースギアのプラットフォームを譲り受け、2001年より「菱智」という名前で生産を開始。当初はオーソドックスなデリカスペースギアの顔を持っていたものの、現在に至るまでの間に数回のマイナーチェンジを経験し、現行のフロントマスクにたどり着くという独自の進化をたどった。

 なので、この「菱智」は車体がデリカスペースギアに「そっくり」と思われがちだが、「そっくり」どころかちゃんとした経緯で生産されている「独自進化モデル」と解釈するのが正しいだろう。現在のラインナップでデリカスペースギアのボディを使用するのは「菱智M5」と「菱智V3」の2モデルで、同時に展開されている「菱智PLUS」や「菱智M7」は独自のボディを使用するモデルとなっている。

東風風行 菱智(4度目のマイチェン)
東風風行 菱智(4度目のマイチェン)

■どことなく「ワゴンR」っぽさが残るが…

 この記事で最後に紹介するのが、国営自動車メーカー「北京汽車」の傘下「昌河汽車」が生産する「北斗星」シリーズだ。

 カクカクしたボディにどこか懐かしさを感じるフロントマスク、このクルマは紛れもなく初代スズキ ワゴンRのコピー車に見えるだろう。だが、実はスズキがかつて中国で現地生産を行っていた時代の名残なのだ。

北汽昌河 北斗星
北汽昌河 北斗星

「北斗星」は1994年にスズキと昌河飛機工業公司(のちの昌河汽車)の合弁会社「昌河スズキ」が生産していた初代ワゴンR ワイドの現地生産モデル。通常のホイールベースを持つ「北斗星」に加え、よりモダンな見た目と長めのホイールベースを持たせた「北斗星X5」というモデルも展開されている。

 だが、スズキは2018年に中国市場から撤退、合弁企業もその流れで解消。解消後の昌河汽車は北京汽車の傘下に入り、「江西昌河」へと改称、ワゴンRベースの車種たちも継続して生産されることとなった。

 江西昌河の2022年以降における消息は掴みにくくなっている。販売が低迷し、改革に乗り出したという報道は確認できるが、「百度」で検索しても公式サイトは表示されず、リンクを見つけても接続ができない状況となっている。もちろん親会社の北京汽車集団のホームページにも、江西昌河の車種どころか、傘下企業紹介の項目にも掲載されていない。

 少なくとも初代ワゴンR ワイドをベースにした電気自動車「EC100」と「EV2」は2021年ごろに販売しており、これ以外にもミドルサイズSUVや小型トラック、純電動配達バンなどもラインナップに用意していたことが各自動車メディアの記事から確認できる。

 ただ、このようなことは中国の自動車事情を調べていて割とよくあること。江西昌河の今後(?)に期待したい。

次ページは : ■「パクリ」ではない複雑な背景を持つクルマを見分けるには…

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