期待するだけ無駄!? 「2Lターボで250万円のFRスポーツ」は夢物語なのか

期待するだけ無駄!? 「2Lターボで250万円のFRスポーツ」は夢物語なのか

スポーツカー好きにとって多い要望が「2Lターボで、250万円のFRスポーツ」という魔法のような合言葉。

かつてのシルビアなどのリバイバルを望む声はよーく理解できるのだが、実際は難しいこともなんとなく皆さん知っているはず。

なぜかつてのような安くて、ターボで楽しさ満点のスポーツカーが出てこないのでしょうか? 法規の問題で組み込まざるをえない安全装備や快適性、市場規模やメーカーのコンプライアンスを考えると、「そういうクルマ」はもう作れないのか?

作れないのだとしたら、(黙って布団の中で泣くので)その理由をビシッと教えてください!

文:鈴木直也/写真:ベストカー編集部


■輸入車にできて国産メーカーにできない理由

最近はいろんな面で二極化が進んでいるといわれているが、クルマ社会もそれは例外ではない。

売れるジャンルのクルマ(たとえばSUV)には各メーカーこぞってニューモデルを投入するが、不人気ジャンルはまったくの閑古鳥。

やむなく北米仕様流用やアジア生産モデルでお茶を濁しているから、ただでさえ低調な需要がどんどん先細りとなってしまう。

自動車メーカーの経営効率ということを考えるとこれは致し方ないことかもしれないが、ふと輸入車に目を転じると国産メーカーが“不人気ジャンル”として切り捨てたクルマたちがちゃんと売れている。

ちょうどいいサイズ感のBMW2シリーズクーぺなどもビジネスとして成り立っている。しかし販売価格は700万円超。国産車がその値段でも購入するだろうか?

工夫する余地はまだまだあると言わざるを得ない。国産派にとっていちばん気になるのは、スポーツクーペやホットハッチといったクルマ好きの定番ジャンルだ。

BMWはスポーツクーペ/セダンのベンチマークとして絶大な人気を誇っているし、ゴルフGTIやメガーヌRSなどFF勢にもファンが多い。

人気のSUVにもスポーティなバリエーションがたくさん用意されている。もちろん、ここにあげたようなスポーツモデルはそれなりにお値段も高い。

しかし、彼らはそれできちんとビジネスを回しているわけで、国産メーカーがそこにチャレンジできないとすれば、それは高価格を正当化する性能やブランド力が不足しているこということ。要するに、ビジネスで負けているわけだ。

■86/BRZも驚異的なコスト節約のなかで成立している

ケーススタディとして、86/BRZを考えてみよう。

スープラなき後、トヨタにスポーツカーといえるクルマが皆無となったのを憂えた豊田章男社長のイニシアチブで生まれたのが86/BRZ。

開発を任された多田哲哉CEにとってはコストの制約がいちばんの難題だったと思う。

元祖AE86のデビューは1983年だが、その時点で旧態化していた古い70系カローラのFRプラットフォームを流用し生まれたのがAE86。

80系カローラの本命はFFモデルで、86はオマケのような存在だった。

その後も、ソアラなどのFRスペシャルティが健在だった時代は、パワートレーンや足回りを流してスープラも生き残ることができた。

ハイパワーFR全体の市場が、当時はまだそこそこ大きかったからだ。ところが、多田さんが86の構想を練りはじめた2000年代になると、スポーツカーに使えそうなプラットフォームはほぼ絶滅。

安いFRとしてマークXはあったけれど、先に述べたように、これからスポーツカーが生き残るためには価格に見合った性能やブランド力が必須。

数々の制約のなかからうまれた86/BRZ。改良などを積み重ねてより楽しいクルマに進化しているが250万円、250psにはほど遠い

そういう意味では、マークXベースではどう考えても商品性が不足。デビュー時点ですでに古臭く見えてしまうのが避けられない。

そんな状況の中で、多田CEはAE86という一斉を風靡したFRスポーツのブランド力を借りて、より軽快でアクティブにドライビングを楽しめるクルマを企画する。

そうなるとトヨタにはエンジンからシャシーまで利用できるコンポーネンツが皆無。すべてをゼロから造っていてはとても想定コストではおさまらず、86を現代に蘇らせるという構想そのものが手詰まりとなってしまう。

そこで渡りに船だったのが、2005年10月に結ばれたトヨタと富士重工(現スバル)の資本提携。スバルのコンポーネンツを利用することで、86構想はようやく日の目を見るわけだ。

しかし、使えるスバルのコンポーネンツはすべて利用し、インテリアなどは極力質素にまとめても、スポーツカーと呼べる性能を確保するにはそれなりにコストがかかる。

ようやく市販にこぎつけた86/BRZは、エントリー価格をなんとか250万円ほどに抑えたものの、やはり主力グレードといえるのはは300〜350万円付近。

ぎりぎりコストを削っても、年間国内販売1万台規模のクルマはそんなに安くは造れないのが実情なのだ。

昔のことを知っているオールドファンは、「250万円くらいで250psのFRスポーツがあればいいのにねぇ」と妄想するけれど、コスト制約の厳しい現代のクルマ業界ではそれは非現実的。

86GRを見るとわかるとおり、サスペンションやブレーキにちょっと贅沢をすると、価格はすぐ500万円近くまで上昇。

エンジンも含めて、ボディや足回りを納得ゆくまで磨き込むと、100台限定販売された86GRMNのように648万円になってしまう。

国産メーカーにもすばらしいスポーツカーが作れることを証明した648万円の86GRMN。ターボを乗せて、パワーをもっと出してというのは技術的には簡単だ。しかしそれをメーカーが製品として保証するとなると更にコストはあがる

より高品質/高性能なパーツを使えば性能が向上するのは、自動車メーカー自身がいちばんわかっている。

たとえば、86/BRZのFA20型水平対向エンジンをターボ化して、軽めのチューンで250ps/300Nmくらいの性能を引き出すのは容易だろう。

でも、そうなったらトランスミッションからデフまで、すべての駆動系は設計のやり直し。そこれどころか、ドミノ倒しのように影響はボディにも及び、構造設計から見直す必要が出てくるかもしれない。

で、それをいったいいくらで売ったらいいのか?

たぶん、500万円では完全にコスト割れだろうし、それ以上となると700万円出せば直6ツインターボ340psのBMW M240i クーペが買えるわけで、とても採算の取れる商品にはなり得ない。

つまり、BMW 3シリーズみたいに年間30万台以上売れるベースがないと、FRスポーツクーペで勝負するのは難しいってこと。

少量生産車は別だけれど、量産スポーツカーをリーズナブルな価格で世に出すには、それを支える広い裾野が必要なんじゃないでしょうか?

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