■実際に危なかった事例を紹介。窒息死の例もあり
しかし、怖いのは子どもがベルトを引っ張り出して体に巻き付けて遊んでいるうちにロックさせたような場合である。
以下は2008年、息子が7歳の時に2代目日産ティアナ(J32型)の後部座席で撮影した写真である。このようにシートベルトをしたまま横になるとベルトが引き出されてロックする(写真はロックする直前)。
ロックさせてこの状態から起き上がろうとすると、そのたびにベルトが戻りながらロックを続けるのでグイグイ体に食い込んで来る。首に巻き付けて遊んだりしていたら命に関わる。
恐ろしいことに、チャイルドシート世代の子どもがいる家庭でさえも、この機構のことはあまり認知されていないのが現状だ。せっかくロック機構がついているのに、まったく使うことなく(存在すら知らない)ロッキングクリップなどで固定しているチャイルドシートが2000年代初頭にはかなりあった。ロッキングクリップすら使わずに装着し、ちょっと揺らすとグラグラするチャイルドシートも多数あったのだ。
もっと怖いのは、後席に座る子どもがシートベルトで遊んでいるうちに首やおなかに絡まってグイグイ締め付けるというパターンだ。チャイルドシートを固定するためのロック機構なので、締め付ける力は非常に強力だ。
幼い子どもがクルマの後部座席で(チャイルドシートもせず)遊んでいてベルトをロックさせてしまい、窒息死した事故も過去には複数件、発生している。
少し古い資料ではあるが2008年には独立行政法人 国民生活センターが以下のようなリリースを出して注意喚起をしている。いくつか事例を紹介しておこう。
【事例1】2007 年6月/神奈川県/10歳男児
高速道路を走行中、シートベルトをしたままシートベルトを伸ばして身体に巻きつけて遊んでいたところE-ALRが作動してロック。子どもの腹部にベルトが食い込んで腹痛を訴えたので救急車を呼んだ。偶然通りかかった高速パトロール隊がシートベルトを切断し脱出。
●保護者「まったく想像外の出来事でどのようにしたらあのような状況になるのかわからない」
【事例2】2006年12月/愛知県/小学4年生
後部座席に着席していた小学4年生の子どもが、シートベルトを3重に首に巻いて遊んでいたところ、ベルトがロック。引っ張ると余計にしまり警察と救急車を呼んだ。結局救急隊員にベルトを切ってはずしてもらった。
●保護者「急ブレーキをかけていないのにロックがかかるベルトは不良品ではないのか」
【事例3】2001年7月/愛知県/小学2年生男児
小学2年生の息子を後部座席に座らせ、シートベルトをするように指示した。子どもが「痛い」と言い出したので調べるとベルトが締めあがっていた。どうやってもはずせずベルトをはさみで切った。お腹に 2 ミリ幅の青アザができていた。
●保護者「販社に申し出たが親の不注意だと言われた」
【事例4】1999年6月/京都府/9歳男児
9歳の息子が後部座席でシートベルトを首に巻きつけて遊んでいたとき、巻き戻しでロック状態になり窒息しそうになった。父親がシートベルトをつかみ母親がはさみで切った。
●保護者「メーカーは機能は正常で誤使用による事故だという。解除機能がなく、収納時は表示が裏になり見えない」
このほか、走行中の車内で両親が前席に座り、一人で後席に座っていた小学生がベルトを首に巻き付けて窒息死した事例や駐車場の車内に残された4歳の幼児が同様に命を落とした事例もあった。
事例1~4の保護者のコメントを読むと、これらの子どもの保護者全員がチャイルドシート固定機構付きシートベルトの意味や目的を全く理解していないことがわかる。
とはいえ、実際にクルマを購入する際、ディーラーの営業マンがE-ALRやチャイルドシートの固定について注意喚起をするとはあまり思えないし、ユーザーの多くがE-ALRの危険性について知る機会がなかったのも確かだろうから、保護者の無知を責めるのは酷だろう。同情の余地は十分にある。筆者の周囲でも10人くらいのママ友に聞いたうち、2人が「うちも経験あり!」と答えてくれた。2組とも119に通報し、ベルトを切断してもらったそうだ。
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