10月15日に幕を閉じた2018年のパリモーターショー。一部メーカーの出展取り止めなど、寂しい話題もあったけれど、それとは対照的に、この晴れ舞台で見事な世界デビューを飾ったブランドもある。
それがベトナム初の国産車メーカー「ヴィンファスト」だ。発表会にはデビッド・ベッカムまで登場して大きな話題となったから、ニュースなどで見かけた方もいるだろう。
しかしこのヴィンファスト、これまで当連載が取り上げてきた、「自動運転やEVでゲームチェンジを狙うハイテク企業」とかではぜんぜんない。今回はそのへんの舞台裏をお伝えしよう。
※本稿は2018年10月のものです
文・写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2018年11月26日号
■ベトナム初の国産自動車メーカー「ヴィンファスト」
今、ベトナムではもの凄い勢いで自動車販売が伸びているものの、その規模は年20万台程度で、タイ、インドネシアと比べると数分の一というレベルだ。
ベトナム国内ではトヨタや日産、ホンダ、GMなどが現地生産を行っているほか、チュオンハイ自動車という会社がマツダやヒュンダイ、プジョーなどの受託生産を引き受けている。一方、輸入車には30%の関税がかかる仕組みで、国内の自動車産業が保護される体制が長く続いてきた。
ところが事態は急変する。貿易自由化の流れを受けてASEAN(東南アジア諸国連合)域内で新たな貿易協定が発効し、ベトナムも、30%の輸入車関税を撤廃しなければならなくなったのだ。
このままでは競争力のある他国の自動車が流れ込み、ベトナムの自動車産業が壊滅的な打撃を受ける。ベトナム政府はこれを阻止しようと、輸入手続きの複雑化や車両検査の導入などを打ち出したが、こうした手法は、他国から「非関税障壁」との非難を受けかねない。ではどうするか。
輸入車に負けない魅力的な国産車を作るしかないじゃないか!
■動き出したのはベトナム屈指の大企業
ベトナム政府のこんな決意に対して動き出したのは、自動車生産とはまったく縁のない企業だった。ヴィングループ。不動産開発や病院、ホテル経営などを手がけるベトナムの巨大企業だ。
同社が、このタイミングで未知の分野に乗り出すことができた背景には、ITに代表される技術革新や、世界的な自動車業界の再編があることは間違いない。自動車開発のハードルを下げる新技術が続々と生まれるいっぽうで、国をまたいだパートナー探しが容易にできる環境が整ってきたのだ。
2017年9月、ヴィングループはベトナム北部のハイフォンに335ヘクタールの土地を取得すると、ベトナム初の国産車開発に乗り出すことを発表した。こうして生まれた自動車メーカーが「ヴィンファスト」なのだ。
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