2018年12月21日、カルロス・ゴーン前日産自動車会長が再逮捕された。特別背任の疑いで再逮捕となった。3回目の逮捕となるが前回までの金融商品取引法違反容疑とは異なる容疑だ。
もう検察の意地にも思えてくるこの問題。いったいなにがどうなっているのか、その真相は今後に明らかになるはずだ。
しかしそもそもなぜ日産はこのような3社とのアライアンスを維持する必要があるのか? 過去を振り返りつつ、ルノーと日産、そして三菱の今後について迫っていく。
文:鈴木直也/写真:日産
■先見の明に加えて幸運を味方につけたゴーン体制
ゴーン問題でしっちゃかめっちゃかになってしまったが、かつて日産とルノーのアライアンスは自動車業界では珍しい成功例といわれていた。
その最大の理由はお互い”稼ぐマーケット”がかぶらないこと。そして技術的にも得意分野が重複していないこと。
日産は北米メイン、ルノーは欧州メイン、コンベンショナルなメカニズムから上手に走りのテイストを引き出すルノー、EVやヴィークルダイナミクスなどハイテク志向の日産。
パーツの共同購入などメリットのある部分だけを享受して、お互い過度な干渉をせず上手に共存していたといっていい。
そんな、うまくいっていたはずのアライアンスにきしみが生じるのは、明らかにリーマンショック以降のことだ。
あのトヨタですら一時的に赤字に転落するというこの大事件を経て、カルロス・ゴーン率いるルノー・日産アライアンスはますます収益効率重視の経営方針に舵を切る。
このころ流行った言葉でいえばまさに「選択と集中」で、要するに儲かるマーケットに重点的にリソースを投入し、そうでないところは切り捨てる戦略を徹底するのだ。
統計データを見ると一目瞭然なのだが、2007年あたりから中国市場の伸びは驚異的で、わずか5年ほどで日産のグローバル販売の3分の1を占めるほどに急伸している。
加えて、以前から日産が得意としている北米市場も堅調に推移。日産のグローバル販売台数は、リーマンショックで落ち込んだ2008年の341万台が、2017年には577万台まで急成長するのだが、増加分はほぼすべて中国市場と北米市場の貢献といっていい。
こういう事業構造になると、日本の自動車メーカーとしての存在意義が問われてくる。カルロス・ゴーン氏は以前から「国内生産100万台体制は維持する」と明言してはいたが、そのじつ開発も販売も国内マーケットは2軍扱い。
いくらグローバル企業とはいえ、開発や販売の中核は日本人社員が大多数なわけで、ルノーから来た“ガイジン幹部”が主導する日本軽視のの事業戦略に、内部からの不満がくすぶって来ても不思議ではない。
ユーザーの目から見ても、このころから日本市場向けの新車がめっきり出なくなった感がある。象徴的なのはマーチのタイ生産移管や、エクストレイルが中国市場をメインとしたクルマに変わったことなどだろう。
真面目に日本市場にコミットして開発されたクルマがセレナと、三菱OEMの軽自動車のみでは、古くからの日産ファンが離れてゆくのもむべなるかなだ。
一方、対照的に優遇されたのがEV部門で、リーフの開発や電池製造子会社AESCの発足など、活発な投資を行なっている。
このころのカルロス・ゴーンは電池事業を制するものがEVを制するという構想だっていたようで、早くシェアをとって早く電池事業を軌道に乗せるため、かなり無理をしたEVシフトを行なっている。
このEV戦略がうまく行っていないのはすでに明らかだが、部下には“目標必達”のコミットメントを押し付けておいて、自身が主導したEV戦略のつまづきは不問。
こういったダブルスタンダードな企業統治スタイルが、内部の人身離脱につながっていったのは否めない。ただ、カルロス・ゴーン氏はツイていた。
ターンアラウンド以降パッとした話題がなかった2016年に、燃費偽装問題で経営危機に陥った三菱を傘下に納めることに成功。
内部に問題を抱えつつも、三菱が加わったことで3社アライアンスの生産台数は膨張し、ついに1000万台クラブに到達。トヨタやVWと肩を並べるに至っている。
ただし、アライアンス全体としては順調に成長しているように見えるルノー・日産・三菱連合だが、ルノー単体で見ると業績は長期低迷。
年間3〜4000億円といわれる日産株からの配当に頼る「ヒモ生活」に陥っている。
おまけに、この日産依存状態を固定化するため、ルノー主導によるアライアンス統合といった話まで飛び出して来る。
フランスは伝統的に政府の産業政策が社会主義的で、ルノーも政府が17%の株を所有する筆頭株主。労働者は手厚く保護されているからカルロス・ゴーンが日産でやったような苛烈なリストラはご法度で、結果的にどんどん生産性が低下して業績が低迷する。
リストラを警戒する政府は、長期保有株主の影響力を強めるフロランジュ法を武器に、ルノーの経営に干渉。
これを主導したのが、前オランド政権の経済・産業大臣エマニュエル・マクロン(編集部註:現フランス大統領)だったというわけだ。さすがにここまでくると「フェアじゃない」と思う人も増えてくる。
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