まもなく平成も終わり。この約30年間に、さまざまな“カタチ”の車が生まれました。
格好の良さが売りのスポーツカーだけでなく、ムダのない機能美を持った実用車も数多く誕生。特に後者は日本車が得意とするところで、最も制約が多い軽自動車でも多彩なカタチが提案されてきました。そんな「奥行きの深さ」も自動車デザインの面白さのひとつ。
今回は平成に生まれた名デザイン車をば、独断で選ばせていただきます。
平成は言うまでもなく日本の元号で、日本以外では使われておりませんので、まずは国産車からジャンル別に3部門、それぞれのベストを選出してみましょう。
文:清水草一
写真:編集部、NISSAN、SUZUKI
【国産スポーツ部門】見ても美しい平成のスポーツカー
平成の30年間を振り返れば、スポーツ車全盛だったのは最初の数年間で、その後は衰退の一途。セリカ、シルビア、RX-7、ランエボなど、消滅した国産スポーツモデルは数知れず。死屍累々とでも申しましょうか……。今回のお題は「消えたスポーツカー」ではなく自動車デザインなので、それはまた別の機会に。
スポーツカー全盛だった平成初期のスターといえば、初代ロードスター、スカイラインGT-R(R32)、NSXの3台にトドメを刺すが、この3台のうちデザインを高く評価できるのは、初代ロードスターのみ。
GT-Rは、非常に個性的ではあったが戦車のようで、美しいとかカッコいいというのとはちょっと違った。NSXのデザインは、あまり個性的でもなかった。
その他見るべきモデルは、RX-7(FD)とアルシオーネSVX、S660の3台、どれも美しくてバランスがいいが、30年間を代表するデザインとすれば、「これだ!」というところまではいかない。
となるとベストは、現行ロードスター以外にない。2016年の世界カー・オブ・ザ・イヤーでは、日本車として初めて大賞とデザイン・オブ・ザ・イヤーを同時受賞しているが、それはともかくとしても、現行モデルとしては世界のトップを争うデザインではないかと考えている。
コンパクトなサイズで、しかもキャラクターラインを排したシンプルな面構成で、ここまでの躍動感と清楚感を併せ持つとは! 本当にスバラシイ。日本にロードスターがあってよかった~!
【実用車機能美部門】機能をカタチで表現した傑作たち
この部門は傑作が目白押しだ。なにしろ日本車と言えば実用的な小型車が最も得意。充実して当然ですね。
ただ、傑作を挙げていくと、コンパクトハッチばかりになり、セダン系はほとんどない。そんななかで実用的な機能美が光ったセダンと言えば、初代プリメーラということになるが、和製オペル的な佳作ではあったけれど、傑作までは行きませんかねぇ。やはりこの部門は、コンパクトハッチしかなかろう。
有力候補を登場順に挙げてみると、まず2代目キューブ。立方体を思わせるフォルムは和箪笥みたいで、空力の呪縛から完全に開放された「遅さの美」を表現していた。
続いて初代ヴィッツ。それまでの日本車の保守性から脱却し、ポップで未来的な世界を提示してくれた。現行の3代目は堕落しまくりましたが。
3代目デミオも傑作だ。シンプルだが、キャブフォワードで躍動感満点。国産コンパクトカーとしては珍しくセクシーさも漂っていた。居住性最優先ではないので、室内はやや狭めだが、それでも十分機能的と言えた。
最後に3代目スイフト。2代目も傑作だが、それをさらに洗練し、機能を美しさに昇華させている。特にリヤビューは、面の張りやラインがなまめかしくセクシー。こんなセクシーなクルマがレンタカーとしてバンバン使われているのが、もったいない気持ちにすらなったものです。
で、この中から選んだのは、2代目キューブです。なにしろ史上初の和風自動車デザインの成功例だ。
「何が和風?」という問いに対する答えは無数にあるが、キューブはどこからどう見ても和風。全長・全高・全幅・が同じなら最も体積が大きくなるのは立方体なので、空気抵抗を無視した場合、立方体は超機能的でもある。
2代目キューブの遅さの美学は際立っていた。これぞ日本車独自の世界です。
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