冬場の寒い中、待っていたバスがやってきて暖房が効いた車内に入った瞬間はいつも幸せな気持ちになるものだ。さてこの路線バスの暖房機能、一体どんなもので車体のどこに付いているのだろうか?
文・写真:中山修一
冷房は上から・暖房は下から!?
最近のバス車両にはほぼエアコンが搭載されているので、冷暖房兼用になっているのかと思いきや、冷房と暖房は基本的に別々の装置を使っている。
車内を見上げ、天井と窓上あたりに並んだ吹出口から冷気が出るのに対して、暖気が出てくるのは床に取り付けられたヒーターからだ。
ヒダの付いた黒い箱のような物がヒーター本体で、中型路線車で2〜3個、大型路線車で3〜4個が座席の下に置かれている。
手足が直接触れてしまわないよう、座席下の奥まった位置に取り付けたり、外側をカバーで覆ったり、注意喚起ステッカーを貼るなどして火傷防止の措置を取るのが一般的な設置方法だ。
もし目の前の背もたれに「温風注意」のステッカーが貼られていたら、自席の真下にヒーターがあると思っておけば大体OK。
車種によって差異があるものの、車両の右側にヒーターが偏って設置される割合が高く、左右の対比で「左1個:右2個」のような感じになる。
理にかなった温風の作り方
路線バス車両の暖房装置では、どうやって温風を出しているのだろうか。ディーゼルエンジンで走る大抵の車種では、その動力用エンジンの冷却水(クーラント)を利用している。
「冷却」と名がつくほどだし、直接暖房と結びつかないのでは? と考えたくなるが、エンジンの冷却水は通常、動いている時であれば触れないほどアツアツなお湯くらいの温度がある。
床下にパイプを通してエンジンの冷却水を循環させ、ヒーターのファンで煽って風を室内に送れば、冷却水が車内を温めるには十分な熱源に変わるわけだ。
エンジンから発生する熱を活用できる点では理にかなったシステムと言える。また、暖かい空気は上へ行く性質があり、温風の吹出口を低い位置に設けておく分には効率も良い。
ただしエンジンを始動したばかりの段階や、走行中でも冷却水の温度が低めのままだと暖房が効きにくい弱点がある。この場合、それを補助する装置「プレヒーター」というものが存在する。
プレヒーターは、車内暖房の効きを良くするため、冷却水を適度に温める湯沸かし器のようなものだ。軽油や灯油で動き、燃料タンクも動力用エンジンとは別のものが用意されている。新車ではオプション扱いになっていることが多い。
また、極寒地の路線バスになると、通常の温風に加えて床にお湯の配管を通して室内温度を維持するほか、ドアが凍結して開閉しなくなる問題に対処するため、ステップ付近にヒーターを増設するケースも見られる。