東京オートサロンでは、煌びやかなカスタマイズカーを見る楽しみはもちろんあるが、整備士や設計士の卵である、自動車大学校のブースに面白いクルマが展示されていることが多くある。
2023年のオートサロンでは、今ではほとんど触る事の無い、ロータリーエンジンを積み込む車体のレストアを手掛けた2つの自動車大学校の姿が印象的だった。電気制御が進む中、あえて古いクルマに触れ、感覚を磨き上げる彼ら。
自動車大学校の生徒が、ロータリーエンジンに触れる意義は何なのか。学生たちの生の声も合わせて紹介していく。
文、写真/佐々木 亘
■ロータリーから学ぶことはとても多い! 花壇自動車大学校のFC3S再生プロジェクト
宮城県仙台市にある花壇自動車大学校。毎年、東北一円の地元企業に優秀な人材を送り出す、歴史ある自動車大学校だ。
今回、彼らが再生のベース車両に選んだのは、マツダ サバンナRX-7(FC3S型)だった。ヘッドライトやフロントバンパーは壊れ、クルマは錆びだらけ、内装などもボロボロで、もちろん走行などもってのほかの状態だ。
各所で苦労したポイントは多いが、特に苦労が絶えなかったのがエンジンを下ろし、修理して、また積み込むところ。普段は現在主流の直列4気筒やV型6気筒のエンジンに触れながら実習を行っているが、ほとんどの生徒がロータリーエンジンに触るのが初めての状態である。
ロータリーの仕組みや構造をしっかりと理解した上で、エンジンを降ろして整備していかなければならない。レストアする前には作業工程はもちろん、ロータリーエンジンエンジンに対する知識を深めるなど、下準備は念入りに行った。普段とは違う、触りなれないロータリーエンジンを、丁寧に修理していく。
「今後、マツダ車やロータリーエンジンに触れることは無くても、この経験が将来の力になるような気はしています。ロータリーエンジンに触る機会をもらえて本当によかった」と、生徒たちは話している。
彼らのサバンナRX-7に対する愛情も相当なもので、再生作業をしてく間に、どんどんとFC3Sの事を好きになっていったという。
その中で、再生のベースとなったのはFC3Sの後期型だったのだが、「前期型のライトやバンパーの方がカッコよくないか?」と学生自らが気づき、出展車両の前後には、前期型のライトやバンパーを移植した。
愛情を注ぎ、整備するクルマのことを深く知っていくからこそ、様々なアイディアが出てくるようだ。ボンネットに描かれた稲妻のペイントも、マツダというメーカーを深く知ったからこそ出てきたアイディアだった。
マツダ社名の由来となったアフラ・マズダーというゾロアスター教の神話に出てくる神からヒントを得ている。神の名は天空と光を意味し、マツダという車名に込められた、明るく輝く未来を、稲妻で表現しているという。
ペイントはエアブラシで描かれた。迫力があり綺麗な稲妻が描かれているが、ペイント担当の学生は「肉体よりも精神的な疲労が大きかった。一発勝負のプレッシャーは相当でした」と笑顔で語ってくれた。
「今後はディーラーへの就職も決まっているので、整備はもちろんですが、ゆくゆくはディーラーの板金工場で、今回磨いた腕を披露したい」と、オートサロンから得た学びを、将来に生かすという意気込みも感じる。
学生たちを見守った先生からは、「学生の愛情ももちろんだが、これだけの技術が集まって、凹んだクルマや故障したクルマが直っているということを、もっともっと多くの人に知ってもらいたい。日本の整備士の技術力を見てもらいたい。
こういう気持ちも、オートサロンで多くの人に伝わってくれると嬉しいです。」という話があった。
筆者も今回のオートサロンで様々なクルマを見てきたが、中でも気づかされることが多かったクルマの一つが、こちらのFC3S。日本には「クルマのために心血を注ぐ整備士」が数多くいることを、忘れてはならない。
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