自ら切り開いた未開の地を、のちに追われてしまうことになったモデルが幾多ある。初代エルグランド、初代ストリーム、初代シーマ……そんな彼らの心の叫びを、打ちひしがれた悲しみに今一度真摯に耳を傾けてほしい!
文/清水草一、写真/ベストカー編集部、トヨタ、日産、ホンダ
■なぜ栄華は続かなかったのか……
まったく新しいコンセプトで誕生し、一時はユーザーから爆発的な支持を得ながら、その後、別のクルマに市場ごと持ってかれたモデルがある。
「あんなに大人気だったのに、悲しい……」
「市場を開拓したのは〇〇だ。それを横取りしやがって、この泥棒!」
そのように声を荒らげたところで、この世は諸行無常、競争があるかぎり、驕れる者は久しからずの理(ことわり)どおり、いつ落ちぶれても不思議はない。そうやって、フロンティアを奪われた先駆者たちの悲哀を振り返ってみよう。
■オラオラLクラスミニバン市場を築いた日産初代エルグランド
現在、国産Lクラスミニバン市場はアルファードの完全1強体制。その兄弟車のヴェルファイアすら消滅寸前に思えるほどで、エルグランドなんて、影も形もないくらいメタメタになっている。
2023年2月の販売台数はアルファード6214台、ヴェルファイア138台、そしてエルグランド212台だ。えっ! エルグランドがヴェルファイアに勝ってるじゃん! と言ったところで、慰めにはならない。なにしろこの市場は、かつてエルグランドが切り開いたもので、エルグランドが独占していたのだから!
初代エルグランドが登場したのは1997年。2代目テラノ(ダットラベース)とプラットフォームを共有し、全高を1800mm取ることで、巨大な室内空間を実現した。
当時はまだオデッセイなどの全高の低いミニバンがかなりの勢力を占めており、そちらのほうが高級志向だった。一方、ステップワゴンなどの箱型ミニバンは庶民派というイメージだったが、そんななか、箱型でありながら最もゼイタクな雰囲気を持ったエルグランドは、オラオラ志向のユーザーの心をがっちり掴んだ。
力強い横桟のフロントグリルは、シボレーアストロ風味。三角形のセンターピラーも、どことなく古きよきアメリカン・ドリームを思わせ、ヤンキー文化にシンパシーのある層を中心に爆発的に売れた。一時は月販1万台を超えたのだから、現行アルファードの大ヒットにも負けていなかった。
ただ、実際に走らせると後輪駆動のトラックベースゆえに、直進安定性は驚くほど低く、高速巡行ではものすごく疲れた。
栄華の日々は短かった。2002年5月、エルグランドが2代目にフルチェンジするのとほぼ同時に、トヨタが、エルグランドをそっくりのLクラスミニバン・アルファードを発売したのだ!
FFベースのアルファードは、安価な2.4L直4モデルを用意していた。対するエルグランドはFRベースであり、エンジンは当初3.5LV6のみ。これで、あっという間に勝負はついた。
アルファードは見るからにエルグランドのマネであり、一部カーマニアは「トヨタのコバンザメ商法」と罵ったが、ビジネスはビジネス。アルファードは初代の成功体験にこだわってアルファードに敗れ、3代目以降は、ライバルとも呼べないほどの大差をつけられて、完全に市場を奪われたのでした。涙が出る。
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