停留所や駐車スペースに停車中のバスを見ると、心なしか車体が傾いているのに気付く。タダの錯覚なのか、それとも本当に傾いているのだろうか。そしてその理由とは?
文・写真:中山修一
■バス、地面、建物etc…傾いているのはどれ?
坂道に停めてあるのかと思ったり、写真に撮った際カメラの水平が取れていないと考えてしまいたくなるほど、主に停車中におけるバスの「傾き」は顕著なものだ。
しかしながら、傾いているのは大抵バスのほうだと思って良い。もしかすると車両のどこかが壊れて斜めに? 決してそんなことはなく、バスが傾くのも機能の一部だ。
■人にやさしい「ニーリング」機能
バスの傾きをもたらすのは「ニーリング」と呼ばれる特殊な機能の働きによるものだ。ニーリング機能は、単純に言えばバス車両の車高を落とす装置である。
車高の調整には車輪を支えるサスペンションを利用している。空気バネ・いわゆるエアサスを装備した車両の専用機能と言えるもので、サスペンション内の空気の量を増減させて上げ下げを行う仕組みだ。
ニーリング機能を使えば車高を50〜100mmほど落とせる。そうすることで地面と出入口の段差が縮まるため、足腰の弱い人や車椅子での利用者が乗降しやすくなる効果が期待できる。
日本のバスではドアのある車体左側を沈ませるのが標準だ。片側のみ車高を下げる関係で、自然と傾いた構図になるわけだ。その様子が片膝をつく姿勢(kneeling)とよく似ているため、ニーリングと呼ばれるようになった。
■それは一体、いつどこで始まった?
名称に横文字が充てられているところからも連想できそうだが、ニーリング機能を最初に実用化したのは欧米である。
ごく初期にまとまった数のニーリング機能付き路線バス車両を導入したのは、アメリカ・ニューヨーク州の公社と言われ、1975年から使用を開始している。バリアフリー化が最大の目的であった。
一方の日本では、1993年に都営バスが路線車にニーリング機能を採り入れたのがルーツとされている。当時はまだ路線バス=段差があって当たり前で、ニーリング付きの車両はレアだったと言える。
1990年代終盤〜2000年代に入るとバリアフリーの観点が重視されはじめ、ちょうどノンステップ車が普及し始めるのと並行するような形でニーリング機能も浸透していった。