トヨタも黙っちゃいない! ワイパーを付けるならサイドミラーよりサイドウィンドウでしょ
1980年代後半といえば、クルマのサイドミラーがフェンダーミラーからドアミラーへと移り変わった時代。ドアミラーの視認性を確保すべくサイドウィンドウの雨滴を除去するためだけに用意されたワイパーは実に斬新だった。
しかし、そもそもこの位置は雨が付着することより、室内の温度差による曇りのほうが気になりそうなのは筆者だけではないだろう。
何よりほぼ同時期にデビューした「日産・シーマ(Y31)」がドアミラーにワイパーを装備していたスマートさと対称的に映る。ライバル同士の熾烈なバトルがこうした自由な発想を生んだのだろうか。
トヨタのワイパーといえば、近年では2010年のコンパクトカー「ヴィッツ/ラクティス」も特筆だろう。同車のワイパーは、通常は2本あるワイパーが1本の、いわゆるシングルワイパーだ。
シングルワイパーは国産車でいえば1979年登場の「日産・ガゼール/シルビア ハッチバック」の「ワンアームワイパー」、輸入車では1974年の「シトロエンCX」、「VWシロッコ」などが口火を切り、1985年のメルセデス・ベンツの「Eクラス(W124)」に装着された「パノラマワイパー」が広く知られている。
それまでは多くのレーシングカーに見られた仕様で、「ロータス・エリーゼ」や「ランボルギーニ・ムルシエラゴ」などの量産スポーツカーにも見られたスポーツカーならではの装備ともいえる。
しかし、ブレードが吹き上げる面積が広く高速となるため、周囲にしぶきが飛びやすいなどのデメリットのためかいつしか衰退していった。にもかかわらず、それを現代のコンパクトカーにコストカット目的で採用してしまうところはさすがの潔さだ。
そうかと思うと、現在のSUV人気を先取りするかのようだった「トヨタ・FJクルーザー」では、世にも珍しいフロント3連ワイパーが採用されていた。
立てられたAピラーのためか、オフロード走行での泥はねに対応するためなのか、いずれにしても世界的にも珍しい短めな3連ワイパーが小刻みに連動して動く様は、ハンドルを握るオーナーと助手席に座る者だけが知る、雨天時のフロントウィンドウ越しに見る絶景だ。
ワイパーはクルマの命!? ワイパーへの偏愛を掲げるホンダ
トヨタがワイパーの本数で個性を出したところで、その領域におけるホンダの異常なこだわりには及ばない。
そもそも日本で初めてリアワイパーを装備したのは1972年に発売された初代「ホンダ・シビック」だった。FF・横置きエンジン、ハッチバックスタイル、ストラット方式四輪独立懸架サスペンションでFF2ボックスを新たな大衆車として定義したシビックは、後方の視認性においても革新的だった。
往時のホンダといえばF1に象徴されるレース活動のイメージが強い。それもあってなのか、デートカーとして一世を風靡した1982年登場の「プレリュード(2代目)」、走りの良さで名をはせた1985年の「トゥデイ」ではシングルワイパーを採用していた。
両車ともに特段フロントのガラス面がフラットだったわけでもないうえ、1本のワイパーが担う面積が広くなるシングルワイパーは、動作が速くなり、モーターへの負担も大きくなる。それでもF1などレース活動のイメージにも重なるシングルワイパーの採用を決断したのはホンダイズムの表れか!?
また、通常の2本式ワイパーでも、ホンダはつい最近まで「2本対向式」という複雑な方式を一部の車種に採用していた実績がある。2018年に発売された「ホンダ・クラリティPHEV」は、2本のワイパーブレードが平行に動作する一般的な形式とは異なり、中央で折り重なるブレードが左右へ広がるように動く「対向式」ワイパーを採用していた。
これは、左右のワイパーブレードそれぞれを長くできることで拭き取る面積が広いメリットがあり、主にフロンガラスの面積が広くAピラーが寝かされたモデルに採用されてきた実績があり、他社では「トヨタ・エスティマ」などにも採用されていた。
同車のものはワイパー本体にウォッシャーノズルを内蔵し、ワイパーの進行方向に向かってウォッシャー液を噴射しながら、すぐさまゴムで拭き取ることができ、これによりウォッシャー液が少量で済みタンクの小型化にも寄与していた。
「スマートクリアワイパー」という名前は伊達ではないのだ。
エクステリアの造形が対向式ワイパー採用の理由だろうが、構造が複雑で採用する車種も少なく、メンテナンス時の費用も高くなりがちな方式を近年の車種にまで残していたのは、ホンダのワイパーへのこだわりの表れなのだろう。
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