何代にも渡って販売が続く車には、多くの場合“名車”として高く評価されているモデルがある。スカイラインならR32型などがまさにその典型例だ。
一方、名車の影に隠れて、歴代モデルのなかではあまり注目されないモデルもある。しかし、そうした日陰のモデルのなかにも実は優れたモデルは多い。
本記事では、歴代の偉大な名車と比較されるばかりに、普段はあまり評価されない日陰の優秀車を改めて紹介。どのモデルも、もっと評価されても良い俊作ばかりだ。
文:片岡英明
写真:HONDA、NISSAN、TOYOTA、SUBARU
2代目シビックタイプR

NSXとインテグラに続くタイプRの第3弾がシビックに設定されたタイプRだ。1997年8月にデビューし、「Si」とは異次元の痛快な走りを見せつけた。それでいて日常の足としても楽しめる、扱いやすさも併せ持っている。
販売価格も劇的に安かったから走りにこだわる人たちは飛びついた。中古車になっても人気は高く、今も探している人が少なくない。名車の1台と言えるだろう。
ベースとなったシビックは2001年9月にモデルチェンジした。人気が低迷していた3ドアのハッチバックは切り捨てられ、5ドアと4ドアセダンでシリーズを構成している。
最大の特徴は、後にフィットにも採用されるセンタータンクで、フラットフロアを実現し、後席も快適だった。このシビックは、スポーツ路線から一歩引き、ファミリーカーとしての魅力を強く打ち出している。だから、最初はタイプRを開発し、販売する予定はなかった。
が、熱い走りを好むホンダ党に押し切られ、急遽、タイプRの開発に乗り出している。エンジンは2代目インテグラのタイプRから譲り受けた2LのK20型直列4気筒DOHC「i-VTEC」だ。
3ドアモデルはなかったので、英国から輸入し、ファインチューニングを施したK20型エンジンを搭載した。
第2世代のシビックタイプRは2001年10月にベールを脱いでいる。ただし、唯一タイプRのなかで評価が低い。自動車専門誌でも、このEP3型タイプRを紹介する記事はほとんどない。
インテグラより最高出力は5ps少ないし、サスペンションもマイルドな味付けだ。実はヨーロピアンテイストのホットハッチだったのである。だからスパルタンスポーツを期待する“武闘派”のタイプRファンは敬遠したのだ。
が、エンジンは高回転まで気持ちよく回るし、ハンドリングも洗練されている。ロングドライブでも快適だから、上質なスポーツハッチが好きな人には魅力的なクルマに感じられるはずなのだが、正当な評価は得られなかった。残念!!
R33型スカイライン

R32型スカイラインはヒット作になり、スカイライン党だけでなく新しいファン層の開拓にも成功している。だが、後席が狭いと不満を言うオーナーも少なくなかった。その反省から誕生したのが9代目のR33型スカイラインだ。
R32の気持ちいい走りを受け継ぎながら快適なグランドツーリングカーを目指し、1993年夏に登場。ボディはひと回り大きくなり、全幅は3ナンバー枠に踏み込んでいる。メカニズムの多くはキャリーオーバーだが、改良を加えた。エンジンは2Lと2.5Lの直列6気筒だ。
が、ボリュームを感じさせるデザインがスカイライン党に嫌われ、販売は今一歩にとどまった。遅れて登場したGT-Rもメカニズムの進化が少なかったため、買い控える人が多かったのである。だから基準車もGT-Rも販売は伸び悩み、失敗作と言われた。
が、ボディサイズとホイールベースの拡大によりキャビンは広がり、後席の足元空間も広がっている。快適性は大きく向上し、ロングドライブが楽しい。
また、リニアチャージコンセプトを掲げた2.5LのDOHCターボエンジンはタイムラグが小さく、扱いやすかった。
優れたドライバビリティが魅力で、最新設計の5速ATも滑らかに変速する。また、静粛性などの快適性能も高められた。
4輪操舵のスーパーHICAS(ハイキャス)は電動タイプとなっている。ボディは大柄になり、ホイールベースも延びているが、R32のように扱いやすい。コントロールできる領域も大幅に広げられ、リラックスした気分で速い走りを楽しむことができたのだ。
実際には、再評価されて当然の名車なのである。
9代目クラウン

平成最初のクラウンが1991年10月にベールを脱いだ9代目のS140系だ。この代の時に上級の「マジェスタ」を兄弟車として設定した。9代目は初めてモノコックボディと4輪ダブルウイッシュボーンのエアサスペンションを採用し、注目を集めている。
また、4ドアハードトップはワイドボディになり、押しの強いデザインが話題をまいた。マジェスタは4LのV8エンジンが主役だ。クラウンは新世代の直列6気筒で、2.5Lと3Lを主役としている。電子制御5速ATを採用したのも、この9代目からだ。
今につながる意欲作だったが、バブルが弾けたこともあり、販売は今一歩にとどまっている。エクステリアもインテリアも新しさを感じるが、保守的な考え方のクラウンユーザーは戸惑ったようだ。
特に真っ赤なガーニッシュを通したリアコンビネーションランプは不評だった。そのため、登場からわずか2年で大がかりな化粧直しを行い、プレスラインまでも変えている。リアビューはモデルチェンジ級の変更だ。
この9代目クラウンはバブルの絶頂期に開発されたからインテリアなどの質感は高いし、快適装備も充実していた。
また、運転しても楽しい。ハンドリングは軽快感があり、乗り心地もよかった。隠れた名車である。
7代目アコード

ホンダの屋台骨を支えた上質なファミリーカーがアコードだ。バブル期に開発された5代目からバトンを受け、1997年に登場した6代目アコードは「国内ベスト」を掲げ、主役のセダンは小型車枠のボディサイズに戻している。
この大胆な方向転換が功を奏し、6代目アコードは思わぬヒット作となった。そして21世紀になった2002年秋、ガラリとコンセプトを変えた7代目のアコードを投入する。
アコードは日米欧の3拠点で生産されている世界戦略車だ。だから再びワイドボディを採用し、エンジンも2Lと2.4LのVTECエンジンに引き上げた。世界戦略車だから質は高く、ハンドリングも洗練されている。路面に吸い付くような優れた安定性を身につけ、乗り心地もよかった。
また、2LのスポーツVTECエンジンを積むユーロRはパワフルだ。6速MTの採用と相まって高回転は刺激的だし、ハンドリングも軽やかだった。
だが、2Lの標準エンジンはパンチがなかったし、デザインもコンサバすぎたからアコード派はなびかなかった。販売は月に3桁レベルで推移し、不人気車のレッテルを貼られている。
だが、大人っぽい走りで後席も快適だ。乗ればいいクルマだったのである。
3代目インプレッサWRX STI

2007年秋に2度目のモデルチェンジを行い、登場したのが3代目のインプレッサだ。最初はハッチゲートを持つ5ドアだけが登場し、1年後にセダンを追加。
そのフラッグシップとして送り出されるのがWRX STIである。それまではセダンボディだったが、3代目は5ドアボディを身にまとって登場した。
エクステリアはWRX STIの名にふさわしい機能美を見せている。ワイドフェンダーの採用によって全幅は55mm広げられ、トレッドも広げられたから視覚的な安定感も増した。STIは専用デザインのバンパーを採用し、フロントマスクも精悍だ。タイヤも太い。
メカニズムは信頼性の高いものを受け継いでいる。パワーユニットはEJ20型水平対向4気筒DOHCにIHI製ターボの組み合わせだ。DCCSを始めとする4WDの制御システムは正常進化している。
が、ホットハッチより硬派の4ドアセダンというイメージが強かったし、インテリアもコストダウンが分かるくらい安っぽかった。インパネは樹脂だし、MOMO製の本革ステアリングの設定もない。
また、ボンネットはダンパー付きで軽く開け閉めできるが、アルミ製じゃなかった。サスペンションのパーツなどもアルミ部材を減らしている。
そのため販売は伸び悩んだが、ステアリングを握ると不満は吹っ飛ぶ。意のままの気持ちいい走りを味わえ、コントロールできる領域も大きく広げられた。
リアのスタビリティ能力は際立って高く、コントロール性も素晴らしい。しかも思いのほか乗り心地もいいのだ。剛性も高いから、速い走りでも安心感がある。
エンジンは8000回転のレッドゾーンまで軽く吹き上がり、加速Gは強烈だ。6速MTは剛性感が高められ、シフトフィールも小気味よいなど、素性のいいホットハッチなのである。