■音紋を集める音響測定艦とは?
今日の対潜水艦戦闘は水上艦艇だけではなく、対潜哨戒機や水中音響監視システムのような定位置センサー等を用いて行うシステム戦闘になっている。逆にいえば、自国の潜水艦が作戦を行う場合も、単独ではなく、水上艦艇や対潜哨戒機の支援がなければ任務の遂行が難しいということだ。
また平時から戦闘が想定される相手国の潜水艦についての情報収集も必須である。その一翼を担うのが音響測定艦(海洋監視船ともいう)だ。
対潜戦において指標となる仮想敵国の潜水艦の音紋採取を行うのが音響測定艦で、平時から音響データを収集しておくのが主任務である。アメリカ海軍や海上自衛隊の音響測定艦では潜水艦の静粛化にともない低周波のパッシブおよびアクティブ音響監視システム のSURTASS(Surveillance Towed Array Sensor System:監視用曳航アレイソナー)とLFA(低周波アクティブ)ソナーシステムを装備する。
通常はパッシブ式の監視用曳航アレイソナーで水中聴音を行い、目標の潜水艦が静寂すぎて曳航アレイソナーだけでは音を検出できない時には低周波アクティブソナーを使う。低周波の音波を発射し、潜水艦から反射される音波を曳航アレイソナーで探知する。その探知距離は最大数百キロに及ぶといわれる。
しかし近年、低周波アクティブソナーのクジラ等の海洋生物に対する影響が問題視されている。
ちなみに機雷探知に使用されるソナーは高周波ソナー。沿岸海域のような浅海面では分解能が高い高周波ソナーのほうが小型潜航艇なども探知することができる。
■双胴型の船体を持つ音響測定艦
日本では、海上自衛隊が「ひびき型」音響測定艦を3隻保有している。「ひびき型」は海上自衛隊初の双胴型の船体を持つ艦で、艦橋の後部に広いヘリ飛行甲板が設置され、艦尾にはAN/UQQ-2 SURTASSを格納している。
ところで「ひびき型」の双胴型の船体というのは正確にいうと、半没水双胴船あるいは小水線面積双胴船(SWATH)と呼ばれるものだ。形状が魚雷型の2本の船体(ロワーハル:水没体)を水没させ細いストラットで上の船体とつないだ形をしている。
水没体は水面を切るストラットが細く、その部分の排水量が小さいので、波から受ける力が少なく、波の中での運動が小さくなる。そのため揺れが少なくなり、波が高い海面や高速での航行時の安定性が良いのが特徴だ。これにより音響測定艦では海中に沈んだソナーシステムを安定して曳航し聴音作業が行える。ただし独特の揺れがあるともいわれる。
さらに”ひびき型”では水没体にバウスラスターを装備して接岸・離岸時の操船を行いやすくしている。
ちなみに海外では、半没水双胴船の利点を活かして、高速航行を可能にするために水没体をいくつかに分け、より造波抵抗を減らたシー・スライスなんていう船もあった。この船は4つの水没体と船体を細いストラットでつないだ構造で、水面を切る部分がより少なくなるので通常の半没水双胴船よりもさらに性能が向上している。シー・スライスはアメリカ海軍が建造した実験船だった。
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