負けたらマジでヤバい!!? トヨタの水素戦略が国内製造業の未来を守る

負けたらマジでヤバい!!? トヨタの水素戦略が国内製造業の未来を守る

 ナカニシ自動車産業リサーチ・中西孝樹氏による本誌『ベストカー』の月イチ連載「自動車業界一流分析」。クルマにまつわる経済事象をわかりやすく解説すると好評だ。

 第二十一回目となる今回は、 前回に引き続き2023年6月8日の「トヨタ・テクニカルワークショップ2023」より。前回はEV戦略をメインに紹介したが、今回は水素戦略とそれを通してトヨタが目指す未来を見定める。

※本稿は2023年7月のものです
文/中西孝樹(ナカニシ自動車産業リサーチ)、写真・画像/TOYOTA ほか
初出:『ベストカー』2023年8月26日号

■超重要! 水素事業でトヨタが業界標準を握る意義

燃料電池システムコストの見通し
燃料電池システムコストの見通し

 2023年6月上旬に開催されたトヨタの「トヨタテクニカル・ワークショップ2023」はEV戦略と全固体電池に集中した報道が多かったのですが、実際はマルチパスウェイ(全方位)戦略を支える包括的な技術開発を説明する場でした。

 燃料電池(FC)、バイオ燃料、合成燃料(e-Fuel)などのマルチパスウェイ戦略を支える全方位のカーボンニュートラル技術も注目すべきところです。

 トヨタは「水素ファクトリー」を7月1日付けで新設し、燃料電池などの開発・生産の加速化を専任組織で進めており、山形光正氏が水素ファクトリーのプレジデントに就任しています。

 カーボンニュートラルを実現するために、マルチパスウェイ戦略を堅持することは非常に合理的な考えです。ただし、EVの競争力確立は優先せざるを得ません。EVの成功なくして持続可能性の高いマルチパスウェイ戦略はないと考えます。

 しかし、EVシフトだけで日本や新興国などでカーボンニュートラルが実現できるものではありません。世界にフルラインで商品を提供するトヨタにとって、EV以外の脱炭素化の道筋を確立することは不可欠となります。

 さらに、国内製造業が持続可能な未来を描くには、世界に通用する技術と製品が必要です。水素事業に多くのチャンスが存在するのです。燃料電池車を基盤に水素事業で世界のデファクトをトヨタが握ることは非常に重要です。

 この戦いに敗れた時は、EVに留まらず多くの車両技術が隣国の中国などに奪われることになりかねないのです。

■「馬鹿が売る」から「馬鹿売れ」へ?

液体水素燃料で走るS耐カローラスポーツ。まさにレースが市販車の実験室となっている
液体水素燃料で走るS耐カローラスポーツ。まさにレースが市販車の実験室となっている

 燃料電池とは水素と酸素を化学反応させて電気を起こす発電装置です。その電気を蓄電池に溜め、モーターを駆動する車両が燃料電池車(FCEV、フューエルセル)となります。

 イーロン・マスクが「Fuel Cells(フューエルセルズ)」を「Fool Sells(フールセルズ、馬鹿が売る)」とツイートしたのが2020年ですが、確かに、ここまではトヨタのMIRAIもヒョンデのネッソもさほど普及していません。

 しかし、近い将来に燃料電池はフールセルズでも「馬鹿売れ」となるポテンシャルがあります。それをけん引するのが商用車です。バスや小型トラックではEVが有利ですが、長距離輸送やダンプ、こみ収集車など架装した車両では燃料電池車に分があるでしょう。

 トヨタはシステムサプライヤー(車両を販売するのではなく、燃料電池システムを外販する)戦略を採用し、勢力を拡大してきました。燃料電池の引き合い規模は2030年に10万台に達することが可能だと強気です。

 さらに、水素ファクトリーでの取り組みにおいては20万台への目標を掲げています。これは日本のものづくりにとって非常に勇気づけられる展開力です。

 水素ファクトリーの事業方針として、1)水素市場の大きいマーケットのある地域での開発・生産の現地化、2)有力パートナーとの連携強化、3)次世代燃料電池技術の革新的進化の3点を掲げています。

 中国では、ディーゼルエンジンの最大手であるウェイチャイ・パワーがカナダの燃料電池大手バラード社の18.9%の出資比率を握り、勢力を拡大しています。

 トヨタは広州汽車、第一汽車、福田汽車、東風汽車、北京億華通科技(シノハイテック)と6社連合を組み、中国トラック市場の約半分を握る勢力を形成しました。北京億華通科技と共同で2024年4月から燃料電池の現地生産を始めます。

 そこに、2023年5月に電撃発表されたダイムラートラックとの提携が加わります。三菱ふそう、日野自動車の経営統合に留まらず、水素関連の開発協業を進め欧州メーカーと連携し、量産規模を確保してコストを下げる考えです。

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