踏み間違え事故はなぜ起こる? 運転手だけの問題ではない近代車に潜むワナとは?

■モーターの大トルクを止めるためのブレーキ踏力は?

水野氏が提唱する「30cm幅の階段を昇り降りできるか?」のチェック。30cm幅のスペースで階段の昇り降りができれば、足元の空間認識能力やブレーキペダルを60kgで踏める身体能力があることがわかる
水野氏が提唱する「30cm幅の階段を昇り降りできるか?」のチェック。30cm幅のスペースで階段の昇り降りができれば、足元の空間認識能力やブレーキペダルを60kgで踏める身体能力があることがわかる

 さらにEVに限らず、ハイブリッド車でもモーターの駆動ではさらに急発進時のブレーキは難しくなります。

 モーターのトルクの立ち上がりは急激で、回り始めた瞬間に最大トルクを発生します。モーターの性能にもよりますが、50~60kgmのトルクで急激に動き始めるのです。これはGT-Rの最大トルク並みです。

 この駆動力で走ろうとするクルマを停止させるには、ブレーキペダルを60kgf以上の踏力で踏む必要があります。日常、信号でクルマを停止させるブレーキの踏力はせいぜい10kgfから20kgf程度です。60kgfの踏力は、現役世代でも思い切り体重をかけてブレーキペダルを踏むほどの踏力です。

 ちなみに、新型車の型式認証試験では、温めて効きをよくしたブレーキを、約80kgfの踏力でペダルを踏み、停止性能の認証や公表をしています。

 しかし60~80kgfの踏力は、簡単には出せません。大トルクで走り出そうとするクルマを止めるためには、強力な踏力でブレーキペダルを踏む必要があります。

 しかも長時間駐車後の走りだしでは、ブレーキが冷えて摩擦力μが低く、効きが低下しています。もっと強い踏力が必要となるのです!!

 現在、75歳以上の高齢ドライバーの免許更新では、認知能力試験はありますが、体力測定は不十分です。

 実車による運転実技試験に「緊急時の停車能力の確認」はなく、通常の普通運転のみで合格となります。

 ペダル共踏み時に、クルマを止めきれるかなどという試験項目はないし、さらに、急ブレーキの実技確認すらありません。

 緊急時に急ブレーキが駆けられる60kgfのペダル踏力を出せるためには、最低限でも片足立ちで少し飛び跳ねて自分の体重を支えられる脚力が必要です。

 私は以前から提案していますが、高齢者免許更新時の試験に、「30cm幅の枠の中で、階段を6段昇れること」、という身体能力試験を加えるべきだと考えています。

 アクセルペダルとブレーキペダルの位置を足の感覚で認知するには、おおよそ20cmの位置感覚が必要です。ちょっと余裕を見て30cm幅のゾーンの中で階段を直視せずに、6段程度昇れるのであれば、ペダルの位置認知能力は大丈夫でしょう。

 また、階段の昇り降りをすることで、片足で自重(60kgf程度)を支えられることも確認できます。

 実に簡単なテストですが、ブレーキペダルをしっかりと踏み込めるかを確実に見極めることができます。

 モーター動力のクルマでペダル共踏みをしてしまっても、60kgf以上の踏力でブレーキを踏めれば、アクセルが全開状態でも、ブレーキで暴走は止められます。

 逆に言えば、30cm幅で階段を6段程登れなくなったなら免許返納を決断すべきだ、と言うことです。「急ブレーキも踏めない」自分の身体能力がわかれば、免許返納にも納得ができます。

 皆さんご自身の場合もそうですが、例えば高齢の親御さんに免許返納を決断してもらう際にこうしたテストをしてください。

 クリアできないようであれば、もう緊急時にクルマを止めることができないのだ、ということで、免許返納に納得してもらってください。

 あるいは、ハンディキャップの方などのために、ブレーキやアクセルを手で操作するシステムがあります。これを高齢ドライバーでも愛車に取り付けて操作訓練をして使えるような仕組み作りも必要だと思います。

次ページは : ■踏み間違えが起こりにくいペダル配置が大切

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