■グプタ氏は株主総会で無言の退社発表
大きな危機感を持って社長に就任した内田氏は、痛みを伴う事業構造改革を中心とする中期経営計画「Nissan NEXT」をグプタCOOとともに進めてきた。
インド人でホンダのインド現地法人をスタートにルノー入りしたグプタ氏は53歳と若く、日本語も堪能で「実務派」と評されて実質的に日産事業構造改革の旗振りをしてきた逸材だ。
「Nissan NEXT」の推進により、日産の業績は2022年3月期(2021年度)で黒字転換を果たし、前期の2023年3月期も半導体不足や原材料高騰など厳しい環境下ながら営業利益3771億円、当期純利益2219億円を確保して増収増益となった。
それでも自動車事業の売上高営業利益率は0.4%と1%にも満たない。今期(2024年3月期)見通しでは、売上高が前期比17%増の12兆4000億円、営業利益が38%増の5200億円、当期利益が42%増の3150億円と、コロナ禍前の2019年3月期並みへの回復を見込む。
この前期決算発表(5月11日)では、内田社長とともに、グプタCOOが並んで出席し「今後の課題として中国事業の回復」を強調していたが、翌12日にグプタCOOが6月27日の株主総会で取締役を退任すると突然の発表があった。
さらに、6月16日には27日付けで退社と発表するとともに、グプタCOOの取締役退任をめぐる内部告発など、自社ガバナンスに関連する報道や情報管理について第三者機関による調査を進めていることも明らかにした。
6月27日の日産定時株主総会では、積年の課題であったルノーとの資本関係見直し議論が2月に「対等出資」で合意したものの最終契約が遅れていることなど、ルノーとの新提携の行方に大きな関心が寄せられていた。
また、この株主総会の直前の6月20日にはカルロス・ゴーン被告が逃亡先のレバノンで日産などを相手取り、名誉を傷つけられたとして10億ドル(約1400億円)の損害賠償を提訴したことへの対応も注目されていたのだ。
だが、この株主総会では内田社長が議長としてほとんど対応したものの、ゴーン提訴に関しても「適切な対応を図っていく」と回答。
ルノーとの資本見直しの最終契約も「基本合意から次のステップであるフレームの最終契約に時間を要しているが、方向としては前向きで早い段階で形にして説明していきたい」、グプタCOO退社に対しても「グプタ氏は次のステップに向かう」と述べるにとどめた。
質問者から「グプタ氏にこの4年間を振り返って話してもらいたい」との問いかけにも無視するかのように、グプタ氏から一切の発言はなく退社理由は闇の中となった。
■2024年度からの2〜3年が勝負どころとなる
こうして日産は「Nissan NEXT」の最終年度であり、12月には創立90周年を迎える大きな節目のなかで、新たなCOOは置かず内田一極体制(ワントップ)で臨むことになった。
とは言っても内田社長はカリスマ性というよりもバランスを大事にするタイプであり、強烈なトップダウンよりボトムアップを引き出すタイプといえる。
7月14日付読売新聞の報道では、ルノーのEV新会社「アンペア」に日産が1000億円程度出資することで一致したとされる。
内田一極体制になったことでルノーとの交渉が急進展したと見られるが、この新たな提携を日産の価値向上に結びつけることができるのか、三菱自工との提携関係はこのまま続くのかなど、早急な判断を求められる局面はこれからも続く。
先の株主総会でグプタ氏とともに社外取締役を退任した豊田正和元経産省審議官は経産省、ひいては日本政府の意向と連動させる役割があったはずで、そちらの対応も必要になる。
いずれにせよ、自動車業界は大・変革期で、モビリティへの変化はスピードアップしている。日産としても「Nissan NEXT」に続く2024年度からの2〜3年が本当の勝負どころとなるだろう。
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