「匠」の仕事をエンジニア視点で解説!! V37スカイライン最終章「NISMO」のすごさ

前後ウインドウの高剛性接着で、車体ねじり剛性が15%もアップ

 車体がらみでもう一点、注目してほしいのが、ウインドウの高剛性接着だ。車体剛性は、基本的には、ボディ単体でのねじり剛性や曲げ剛性で語られることが多いが、実車には、ガラスやドア、バックドア(リアハッチ)、トリム部品などが装着されているわけで、こうしたパーツの固定を強固に行うことで、体感上の車体剛性を上げることができる。トヨタのGRドアスタビライザー(ドアのストライカー部分の隙間にスペーサーを入れて隙間を埋めるアイテム)などもこの流れだ。

 スカイラインNISMOでは、GT-R NISMOで培ったという接着技術によって、高剛性接着剤をフロントとリヤウインドウに使用。重量増となる車体補剛部品を付加することなく、スカイライン 400Rに対して全体ねじり剛性値が約15%も向上したそうで、これによって、操舵に対する応答の遅れがさらに減少したという。この向上代はなかなかに大きく、乗り比べれば体感上もはっきりと分かるはずだ。

 欧州メーカーやトヨタ、スバル、ホンダなど、主要メーカーでは、ボディ組み立てに構造用接着剤を使うことが多いが、筆者の記憶だと、V37スカイラインでは構造用接着剤を使用していない。つまり、スカイラインにはボディ接着という「向上代がある」ということであり、次期型スカイラインでも採用されることだろう。

GT-R NISMOで培ったという接着技術によって、フロントとリヤウインドウを高剛性に接着。それによって、スカイライン 400Rに対して全体ねじり剛性値が約15%も向上したという
GT-R NISMOで培ったという接着技術によって、フロントとリヤウインドウを高剛性に接着。それによって、スカイライン 400Rに対して全体ねじり剛性値が約15%も向上したという

スカイラインNISMOはDASがなければ成り立たなかったはず

 今回の発表資料では明かされていないが、筆者が思うスカイラインNISMOにもっとも貢献しているアイテムは、「ダイレクトアダプティブステアリング(DAS)」だ。NISMO最新のテクノロジーをてんこ盛りしたところで、この神懸ったアイテムがなければ、今回のスカイラインNISMOは成り立たなかったと筆者は考えている。

 2014年のV37型デビュー時から導入されたこのステア・バイ・ワイヤ技術(当時は世界初)は、ハンドリング性能の飛躍的な向上、異次元の高速直進性能、不快なキックバック(振動)を伝えない、疲れの軽減など、操る歓びを増幅させるアイテムとして登場した。初めてV37のDAS装着車に試乗した際、とんでもないデバイスが登場したと感じたのを、いまも強く覚えている。SPORTモードでは、「やりすぎ」とも思えるほどにクイックなハンドリングだった。

 スカイラインNISMOが、DASがなければ成り立たなかったと思う最大の理由は、リヤタイヤの拡幅による影響だ。スカイラインNISMOでは、リヤタイヤ幅を245幅から265幅まで拡幅しているが、これほどリアを安定させると、クルマは曲がらない方向になり、まったりとした車両挙動になってしまう。通常ならば、ステアリングのギア比を変更することで対応するが、DASならば制御チューニングでいかようにも変更可能。またDASであるからこそ、SPORTやSPORT+で、スカイラインNISMOらしいダイナミックな走りのつくり込みができたといえる。前述した、フロントバンパー下のディフューザー形状変更によるフロントダウンフォース増加も、DASのチューニングがなければカバーできなかったはずだ。

 スカイラインのみならず、ぜひほかの車種にも展開してほしいDASだが、ミニバンとの相性も抜群なはずなので、フルモデルチェンジの噂のある、新型エルグランドに採用されることを、ひそかに期待している。

ステアリングの動きを3つのECUが電気信号に置き換えてタイヤの転舵角度を算出。コラムシャフトを介さずに、ラック上にある2機のアクチュエーターがラックを介してダイレクトにタイヤを操舵する
ステアリングの動きを3つのECUが電気信号に置き換えてタイヤの転舵角度を算出。コラムシャフトを介さずに、ラック上にある2機のアクチュエーターがラックを介してダイレクトにタイヤを操舵する

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 NISMOが出すロードカーは、テストコースで「匠」と称される最高ランクの開発ドライバーがチューニングをしている。昨今のクルマ開発はデータで語るのが当たり前だが、NISMOではテストコースを走行し、エンジニアと開発ドライバーが切磋琢磨しながら徹底的にデータを分析したうえで、その数値の先にある感性領域を重要視する開発手法を行っている。「古典的な開発方法」ともいえるが、2023年となった現在でも、クルマの感性領域を100%データ化することは難しい。匠の鋭敏な感覚によって仕上げられることで、ベース車よりも速く、気持ち良く、低速から高速域まで安心感の高いドライビングを狙ったチューンとなる。もし乗る機会に恵まれたならば、ぜひ匠の感覚の世界を味わってみてほしい。

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