悪事を働いたのはビッグモーターだけなのか!? 水増し不正請求の実態と中古車業界の闇

■「急成長」の裏側には……

ライトの根元を折る、靴下にゴルフボールを入れボディに叩きつける、新品と偽り中古パーツを取り付けるなどの手口が調査委員会により明らかになった(lilu2005@AdobeStock)
ライトの根元を折る、靴下にゴルフボールを入れボディに叩きつける、新品と偽り中古パーツを取り付けるなどの手口が調査委員会により明らかになった(lilu2005@AdobeStock)

 ビッグモーターは、クルマの売買だけでなく、車検や修理そして自動車保険まで取り扱う自動車の総合デパートのような販売店だ。

 今回問題となっているのは、修理を行う鈑金部門が損害保険会社に不適切な保険金請求を行っていたということ。

 筆者は、この不適切な保険金請求だけでなく、実際にクルマをビッグモーターへ売却したユーザーがあとから(買い取り額を)返金請求されたこと、そして購入する際には総額表示に加えて「オプションなどを付けないと購入できない」といった話を聞いていた。

 しかし、ビッグモーターが「組織として」そういった行為を行っていたかどうかわからないため、静観していた。

 そもそも中古車販売というのは、ユーザーからの下取りや買い取り、オートオークションで仕入れたクルマにマージンを乗せて販売するという、いわゆる「手数料ビジネス」だ。

 したがって、中古車1台ずつに相当なマージンを乗せないと急成長することはない。

 しかし、中古車の車両本体価格にマージンをたくさん乗せてしまうと、当然価格が高くなり、ユーザーが寄りつかない。したがって諸費用のナンバー交換費用や車検費用といった人件費にマージンを乗せることが一般的だ。

 そもそも諸費用の人件費は販売店側が設定するもので、高い、安いという判断はユーザーが行うべきもの。

 何度も中古車を購入した経験のある人ならば、「この店は諸費用が高い!」、「この店は良心的だ」という判断はできるだろうが、初めて中古車を購入する人やそれほどクルマ購入に慣れていない人などは判断できないだろう。

 だから最初は何軒も回って見積書をもらい、中古車購入に対して自分の経験値を上げていかないとならないと考えている。

 筆者個人的には「中古車選びは販売店選び」だと思っている。店舗の規模が小さくても、その土地に根付いてリピーターが多い。そういった販売店は信頼性も高く、いい店だと言えるだろう。

 今回のビッグモーターの事案は、「販売店の規模が大きくて、建物がキレイで、全国に店舗を展開しているからいい店とは限らない」ということを暗に証明してしまった。

■今回の不正はビッグモーターだけなのか?

不正発覚が遅れた要因のひとつに、特殊な給与体系があったとされる。営業職トップで年収2200万円、地域マネージャーで年収4000万円以上が与えられていた(ビッグモーター公式サイトより引用)
不正発覚が遅れた要因のひとつに、特殊な給与体系があったとされる。営業職トップで年収2200万円、地域マネージャーで年収4000万円以上が与えられていた(ビッグモーター公式サイトより引用)

 ビッグモーターの経営陣が報酬の自主返上を実施することになった鈑金部門の損害保険会社への不適切な保険金請求事案について、確かに、修理部分にさらに手を加えて、不適切な請求をしたビッグモーター側に最大の問題がある。

 しかも1回の請求に「ノルマ」(編集部注……報道によると「14万円」と一般的な修理費としては非常に高額な下限設定)まで設定されていたというのだから、ある意味「徹底されているな」と考えてしまう。

 しかし不正はそれだけとは言えない。

 ビッグモーターの不適切な保険金請求に対して、損害保険会社側はその請求を鵜呑みにして支払っていた、という事実もある。

 一般の人が自動車保険を使って修理する際には、非常に厳しいチェックが行われるのに、ビッグモーターの請求は鵜呑みでそのまま保険金を支払っていたわけだ。

 これは、ビッグモーターと損害保険会社とのズブズブな関係をハッキリと表していると思われる。

 どうして、ビッグモーターと損害保険会社がそんなズブズブな関係になっているのか。

 それはビッグモーターが自賠責保険や自動車保険を取り扱う代理店業務を行っているからだ。

 ビッグモーターくらいの規模になれば、各種保険の手数料もかなりの金額になる。これだけ大口の顧客ならば、損害保険会社も忖度せざるをえないだろう。

ユーザーが自動車保険を使って修理する際には非常に厳しいチェックが行われるが、損害保険会社側はビッグモーターの請求を鵜呑みにして支払っていたという(bluedesign@AdobeStock)
ユーザーが自動車保険を使って修理する際には非常に厳しいチェックが行われるが、損害保険会社側はビッグモーターの請求を鵜呑みにして支払っていたという(bluedesign@AdobeStock)

 約10年前、筆者が辛口スクープ誌の編集部に所属した際に、不適切な保険金請求事案を取り扱った。それはドイツのプレミアムブランドを数台所有するオーナーの告発だった。

 そのオーナーが所有する最新モデルで買い物に行き、駐車していた際に、フロントのバンパーを擦られてしまったという事故が発端となる。

 オーナーはすぐに損害保険会社に連絡すると、いつもメンテナンスに入れているディーラーの営業マンがクルマを引き取りに来た。

 その擦り傷も、オーナー曰く、コンパウンドで磨けば消せるのではというレベルだったそうだが、フロントバンパーを交換するということになった。

 営業マンが自宅に損害保険会社へ提出する書類を持ってきた際、中身を確認せずにハンコを押したそうだ。修理から戻って来たクルマを見ると「交換した」というフロントバンパーは新品のように見えなかったという。

 そこでオーナーは損害保険会社に連絡をして今回の掛かった費用の書類を取り寄せて驚いたそうだ。

 フロントバンパーの交換だけでなく、フェンダーの塗装も含まれていた。さらにオーナーが目を疑ったのが、1カ月もレンタカーを借りたことになっていてその費用がなんと100万円。

 数台の車を所有しているため代車など必要ないこのオーナーは、すぐにディーラーに行くと、そのまま「販売店出入り禁止」となってしまったのだ。

 この販売店は、国産、輸入車の新車を取り扱うディーラー系販売店。そのようなメーカーの看板を掲げる販売店でも、損害保険会社に不適切な保険金請求を行い、しかもそのオーナーを販売店出入り禁止にするという言語道断な対応をした事案だったのだ。

 個人的にはディーラー系の販売店でも、不適切な保険金請求が行われていたのだから、ビッグモーターでこのようなことが行われていても、それほど驚きはしない。

 しかしこれは立派な犯罪なのだ。しかも公になったのであるから、企業としては相応の責任を負うことになる。

次ページは : ■「正直者が馬鹿を見る」を終わりにしよう

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