近年の新型車に搭載されるサンルーフ(ガラスルーフ)はガラスが開かないタイプが多く、かつての主流であったガラスがスライドしたりチルトアップしたりなどでクルマの天井が開くタイプのサンルーフが減ってきています。ルーフガラスを少し開けて光と風を感じながら、普段は見ることのないクルマの上にある景色を眺めるのは、解放感があって楽しいものでしたが、なぜ開かないタイプが増えているのでしょうか。
文:吉川賢一
写真:TOYOTA、HONDA、MITSUBISHI、DAIHATSU
あったら嬉しいけど、思ったよりも使わなかったし、そもそも高価
冒頭で触れたように、かつてのサンルーフといえば、チルトアップサンルーフ(後方が浮き上がるタイプ 開放面積は僅かですが、換気には十分)やスライディングサンルーフ(屋根に設置されているガラス面と開口部が後方にスライドするタイプ)など、スイッチ操作で、電動でガラスを開け閉めできるものが主流でした(手動タイプもありました)。チルトアップとスライディング両方できるものが多いようです。
クルマのルーフが開くと、風の流れや匂いを楽しむことができ、天気のいい日のドライブがさらに格別なものになりますが、開閉できるサンルーフの場合、重たいスライド機構によって重量が増すこと(=燃費が悪くなる)、そもそも高額オプションであることなど、デメリットも多くありました。また、当初こそルーフが開くことを楽しんで使っていても、夏は暑くて使わないし、冬は寒くて開けられないなど、思っていたよりも開くことができる機会が少ないことや、そのうち飽きて使わなくなることなど、さまざまな理由が合わさり、その存在自体が見直されるようになりました。車載灰皿の廃止などによって、クルマでたばこを吸うシーンが減ったことも、理由かもしれません。
クルマの装備をひとつつけるには、莫大な開発費が掛かります。自動車メーカーとしては、需要の低いものに開発予算はかけられず、それよりも、衝突被害軽減ブレーキなどの先進安全装備や、ACCやレーンキープアシストなどの先進運転支援技術を標準装備とする方向に予算を使ったほうが、お客様には喜ばれます。「あったら嬉しいけど、思ったよりも使わなかったし、そもそも高いからつけられない」開閉するサンルーフは、こうして減っていったのです。
新材料の登場や技術のブレークスルー、開閉機能を諦めることで弱点を克服
開閉できるサンルーフが数を減らしていった一方で、昨今は開かないタイプのサンルーフが増えてきています。電動開閉機能を省くことで開くタイプよりコストを抑えることができ、構造がシンプルにできて開口部を広くとれること、強度と耐久性、耐熱性能を高めた樹脂材料が登場したことで、2005年ごろから登場し始めました。樹脂製ルーフとすることでガラスに対して半分程度の重量で実現できる(=燃費悪化を少なくできる)ことも大きなメリットです。
コストを下げる目途が立ったことで、より廉価なクルマにも設定できるようになりました。例えば、ダイハツ「タフト」のスカイフィールトップは、軽自動車としては異例なほどに大きなガラスを採用したことで、クルマのキャラクターに合わせた世界観をつくり上げることに成功しています。
樹脂製だけでなく、ガラス加工の技術が進化したことで可能となったアイテムもあります。たとえば、トヨタハリアーに採用されている、ガラスの間に液晶の膜を通し、障子越しのような色味を持たせる「調光パノラマルーフ」はそのひとつ。調光ができることで、夏の日差しをやわらげながら、冬には暖かい日差しを届け、従来のサンルーフでは必須だった日よけが不要となったことで、軽量化も実現しています。ほかにも、新型アルファードで採用されている「左右独立ムーンルーフ」では、2列目の右席と左席にそれぞれに電動シェードを配置されており、右側だけ開けて左側は暗くするという、アイディアで弱点を克服するアイテムも登場しています。
従来のサンルーフでは、採光が欲しければ日差しを我慢する必要がありましたが、これらの登場で採光と日よけを両立することができました。サンルーフは、新材料の登場や技術のブレークスルー、そしてあまり使わなかった開閉機能を断捨離したことで弱点を克服し、再び注目され始めてきたのです。
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