■なぜ整備士不足になったのか?
整備士不足の原因は、何も若者のクルマ離れだけではないといえる。
要因としては、日本社会の少子高齢化現象が大きいと考えられる。若い人が少なくなり、年寄りが増えた。半世紀前の高度経済成長期とは真逆の人口構成だ。
それに整備士は体力的にきつい、汚れ仕事のわりには給料が低い、というイメージがぬぐい切れていない。
現在日本には33万人強の整備士がいるのだが、その平均年齢が46.7歳、特に整備専業店では50歳を超える世界となっている。この数字だけを眺めるとやや絶望感が湧いてきそうだが……。
整備工場の大半が人手不足を感じているなか、有効求人倍率4.55という数字に注目だ。
つまりハローワークに登録している仕事の数に対して、働きたい人の数がまったく追いつかないことを示している。整備士は引く手あまたの大人気職業だということを示している。
■昔の技術が通用しない現実と苦悩
輸入乗用車ブランドとトラック・バスメーカーを中心に、長年整備士コンテストを取材してきた記者が見るところ、自動車の整備とひと言で言ってもさまざま。
タイヤ交換から始まり12カ月点検、車検整備、それにトラブルシューティング作業まである。ホップ・ステップ・ジャンプ的に難易度が上がるのが整備の世界。
整備士コンテストのハイライトもそうなのだが、やはり整備の醍醐味は、トラブルシューティングである。不具合が生じたクルマを素早く的確に原因を突き止め修復する、という一連の流れの仕事だ。
例えば大昔のキャブレター方式のクルマなら、エンジンが不調のケースで燃料・点火・圧縮の3つを疑いアナログ式にひとつずつつぶしていけばよかった。
ところが、コンピューターが10個も20個も付いているイマドキのクルマの場合、外付け診断機に接続し、怪しい部位を探り出す。厄介なのは、最新式の診断機を使っても「答え一発!」で不具合箇所を探り出せないことだ。
故障コードを見つけ、それにこれまでの知識とスキルを投影する、いわば知識と経験の“合わせ技”を使うことで、初めて不具合を見つけ修理することができる。実に高度な職人技なのである。
このような状況ゆえ、かつてのオイルまみれの職人技では通用しない。
友人のベテラン1級整備士Kさんに言わせると「10人のうち1人か2人しかいませんよ、そうした高度の不具合を解決できる整備士は!」。
診断機を使いこなすことも大切だが、そもそも自動車の電気に強くないと話にならない。
ところが、これまでの取材で整備士の大半は“電気は目に見えないから”として電気にからっきしダメな人が圧倒的に多く、興味を覚えるところまでいかないのだ。これが悲しい現実なのだ。
■整備士不足問題は今後どうなる?
未来のことは誰にもわからない……。
でも予測はいろいろ立てられる。意外と悲観的なのは現場の1級整備士のKさん。
「クルマはどんどん白物家電に近くなっている。洗濯機や冷蔵庫、それにテレビやパソコンは今や修理して長く使う人などいませんよね。寿命がきた、として買い換えるのが当たり前になった。自動車も、ある箇所がだめになったら、新品に買い換える、というのが遠くない未来では常識になると思います」と語る。
先の整備専門学校の学部長Iさんは、逆に自動車と整備の未来世界の、明るい面を見ようとする。
「少し前まで内燃機関に代わってEVが席巻するという論調でしたが、100%EV化すると電気需要がひっ迫し立ち行かなくなるとして、ここにきて内燃機関の見直し風潮が再生されつつある。つまり今は過渡期のモビリティ社会として、逆に面白いと捉えたいですね。
キャブレター車もいるし、空飛ぶクルマも活躍する。新しい文化と旧い文化が同居する……そんな風に考えないとやっていけないですよ」
最後に筆者の見解を述べたいと思う。
クルマの整備ほど崇高な作業はない。見方ひとつで、整備士の仕事は一生を捧げて悔いのないものだと思う。タイヤ交換や車検整備は半年1年もやれば誰でもできる。でも高度なスキルを要求されるトラブルシューティングは、超ハード。
登山でいえばチョモランマに挑戦するようなものだ。日々の新メカについての学習は言うに及ばず緻密な思考が必要だし、まるで推理小説で犯人探しをする醍醐味に似た感覚を得ることができる。
そして解決できた瞬間は、何物にも代えがたい満足感で心が満たされ、顧客に笑顔を向けられる。
おまけに給料も、このところ上昇中。年収で400万円を超えているのだ。
【画像ギャラリー】最新技術への対応も急務……自動車整備業界の現状をチェック(11枚)画像ギャラリー
コメント
コメントの使い方