ガソリン自動車がこの世に生まれて130年あまり。その間にはいろんな変態グルマが誕生した。今回紹介したいのは、左右でホイールベースが違うクルマ。コーナー曲がるときとか、なんにも困らなかったのだろうか!?
文/ベストカーWeb編集部、写真/Adobestock(トビラ写真=art_zzz@Adobestock)
■ルノー初のFF車「4」がそれ!
古今東西、クルマは左右対称だと思っていた。ところが世の中なにごとにも例外があるもので、過去には左右でホイールベースが違うクルマが存在した。いや「存在した」なんてもんじゃない。売れに売れて歴史に名を刻む名車になっちまったのだ。
そのクルマこそ、フランスの誇る「ルノー4(キャトル)」。いまや街角で目撃することはほとんどないが、その愛らしさから今でも一部のマニアに愛され続けている傑作車だ。
4のプロフィールを簡単に紹介すると、ライバルのシトロエンが作った2CVを打ち負かさんとルノーが作った万能小型車。スタイル的に大量の荷物を積めない2CVに差を付けるべく、後席背後に広い荷室を設けたのだが、その結果「世界初の量産ハッチバック」という栄えある称号も手に入れた。
話題はそれだけじゃない。4はルノー初のFF車だったのだが、エンジンは縦置きでミッションが一番前にあった。そのためミッションからエンジンをまたいで室内まで、長いロッドが伸びており、運転手はこの棒を押したり引いたりしてシフトチェンジを行ったのだ。
■FFなら後輪はなんでもいい?
で、なんで左右でホイールベースを変えにゃならんかったのか? そこにはリアサスペンションの構造が影響している。4のリアサスはフルトレーリングアームで、床下から後ろに延ばしたサスペンションアームの先にタイヤが付いていた。
問題は、そのサスペンションアームの車体側の取り付け位置。4はここから車体の横方向に、トーションバー(金属棒のねじれを利用したスプリング)を付けて車体のショックを吸収していたのだが、右輪用と左輪用、2本の長いトーションバーを車体左右に貫通させなければならない。
普通なら、ホイールベースをそろえるため2本は上下に並べて取り付ける。ところがそれでは床面を高くなって荷室が狭くなるというわけで、キャトルは2本のトーションバーを前後にずらして取り付けた。その結果、右側のホイールベースが左より約50mm長くなったのだ。
当時は前輪駆動の研究が未熟で、「FFの後輪は付いてりゃOK」という発想だったとも聞く。実際、ルノー4はさしたる不具合も起こさず、1961年からなんと31年間も作られ続けた。約835万台という生産台数は、単一車種としてはVWビートルとT型フォードに次ぐ、世界第3位の記録なのだそうだ。
ちなみにルノーは、4の後継車である5(サンク)にも同じサスペンションを用いたから、初代5のホイールベースも左右で異なっていた。
「やむを得ぬ事情で左右のホイールベースを変えます」。こんな理屈、いまどきの自動車開発で言い出したらどう判断されるのだろうか?(笑)
【画像ギャラリー】835万台も作られた傑作小型車のディテールをじっくり!(7枚)画像ギャラリー
コメント
コメントの使い方