そんなにたくさん売れたわけじゃない。でも、何年経ってもみんなが覚えている。今回は考えると絶対売れない奇異なSUV。スズキさん、よくこんなの出しましたね!
※本稿は2024年2月のものです
文/小沢コージ、写真/SUZUKI、撮影/茂呂幸正
初出:『ベストカー』2024年3月10日号
■バブルの終わりに咲いたスズキの傑作かつ迷作
マジかよコレ? 見れば見るほどスズキさん、ホントにこんなの出しちゃったのね?と言いたくなる、1990年代半ばの傑作であり迷作がスズキX-90だ。
全長3.7mの小さなSUVでありながら、完全2シーターで独立トランクを持つあり得ないノッチバックボディ。オマケに屋根はなぜか半分オープンになるTバールーフとくる。
もっと言うと中身は乗用車ではなく、本格ラダーフレームを持つ当時のエスクードだから駆動方式はパートタイム4WD。ギアボックスは4ATも選べるが、人気は今回乗った5MTで当然ながら副変速機付き。
企画の発端は1993年の東京モーターショーや当時の欧州ショー。そこに参考出品されて世界でウケちゃって製品化されたわけだけど、今考えるとバブルムードが残ってたともいえるあり得ないプロダクトよね。
カッコはキテレツで人も大勢乗れず、トランクだけがヤケに大きい、考えれば考えるほど使いづらい不思議4WD。フレーム付きで床も高めだわ、国内4年数カ月でたった1348台しか売れなかったのも納得できる。
■見れば見るほどあのゼンマイミニカー!?
当時この手はRVと呼ばれ、コンパクトは初代トヨタRAV4とホンダCR-Vぐらい。一応RAV4にも3ドアはあったが中身は乗用車で乗り心地はよく人も4〜5名乗れた。返す返すもX-90は今どきあり得ない奇跡の配合カーなのだ。
でも、それだけにとてつもない存在感なのよね。特にオカシイのは横から見た時の佇まいで、キャビンに寸詰まり感あって、まさしく原寸大チョロQ。ホイールベースはたった2.2mしかなく、しかしノーズとトランクだけが妙にデカい尾頭付きサカナ的フォルム。
さらにヘンなのは屋根を開ける時で、Tバールーフで左右別々にいちいち手動で外さなければいけない。
また屋根はガラス素材で電動日よけも付いてないからサンシェードも左右別々取り外し。オマケに開けたら開けたでTバールーフのセンターフレームと固定式リアウィンドウがドカンと残る。頭上の開放感こそあるけど、リアが衝立のように残ってガラスも下がらないからこれまた中途ハンパだ。
■見た目に反して意外と走る!
でもその分ボディはしっかりしており、走りは悪くない。乗り心地に最新SUVのような剛性感こそないが、走り出しからフレームボディがゆえのタフさを如実に感じるし、ステアリングも繊細ではないが不安定さなし。ガッチリ感すら得られる。
エンジンはエスクードと同じオールアルミ製の1.6L直4・SOHCで100ps&14.0kgm。スペックは大したことないが、車重1トンちょいと軽いため、2人と荷物を楽勝で運んでくれる。
心配なのはさすがに30年近く経つ激烈レア車だけに故障や修理の話。しかし「年に1〜2台は扱う」というキテレツ車専門の千葉県バクヤスオートさんによれば「中身エスクードだから意外と壊れないし、基本オイルと水とベルトをちゃんと交換してれば大丈夫」。
骨格はエスクードなんで樹脂類や外装を除けばパーツもなくはない。とはいえ国内1300台強しか作られてないクルマ。「労って乗ってください(笑)」とか。
またガラスルーフとの合わせ目ゴムの縮みによる雨漏りもあるし、完璧を望んではいけない。とはいえ今後生まれ得ない2ドア屋根開き2シーターSUVが100万円前後で買えるって………凄くない?
●Kozzi評価
・タイムスリップ度:★★★★
・レア度:★★★★★
・お金かかりそう度:★
・乗って楽しい度:★★★
スタイルは今見てもモダンだが街で見ないしチョロQ的フォルムは衝撃。走りは予想以上に骨太で壊れも少なく助かります!
コメント
コメントの使い方軽自動車と勘違いしてる方いますが、れっきとした小型車です。1.6L100Ps。当初コンセプトカ-として参考出品したが、海外からのオ-ダ-が多く、市販化。しかし、やはり2人乗りという事が原因か国内では売れなかった。