ホンダのバッテリーEV「Honda e」が2024年1月をもって生産終了となった。登場から(生産終了発表まで)わずか3年と4ヶ月、国内の販売台数はおよそ1800台、グローバルでは1万2000台と、ほろ苦い結果に終わってしまったHonda eだが、ほかのバッテリーEVとはひと味もふた味も違う、ホンダらしいモデルだった。
ただ、ここで諦めるホンダではないはず。そこで思い出されるのが、2017年の東京モーターショーでホンダが出展していた、「ホンダスポーツEVコンセプト」だ。
文:吉川賢一
写真:HONDA
Honda eのEV専用プラットフォームは、もっと評価されていい
2019年3月にワールドプレミア、2020年10月に日本発売となったHonda e。都市型コミューターやセカンドカーとしての需要を見込んで開発されたバッテリーEVであったが、設計には数多くのチャレンジが織り込まれており、登場当時「またホンダは面白いクルマをつくったな」という印象を受けたのを覚えている。
Honda eに採用されたEV専用プラットフォームは、バッテリーを車両床下、ホイールベースの中央に配置し、前後重量配分は理想的とされる50対50に。水加熱ヒーターを採用した駆動用バッテリーは容量35.5kWで航続距離は256kmと、ほかのバッテリーEVと比べるとやや短かったが、シティコミューターやセカンドカーとしてみれば、十分な距離設定だ。また、リアモーター・リアドライブ化したことで、フロントタイヤの転舵角を増やすことに成功し、軽自動車並みの最小回転半径4.3mを達成していたほか、四輪独立サスペンションによる高い安定性、滑らかな乗り心地も実現しており、VGR(可変ステアリングギアレシオ)を採用していたことで、俊敏なハンドリングも得ていた。
インテリアも、5つのスクリーンを水平配置したワイドビジョンインストルメントパネル(デジタルサイドミラー含む)を採用、機能や安全に関する各種情報からエンタメまで、さまざまなインフォメーションが得らえる工夫が凝らされていた。
発売当時の価格で税込451~495万円と、やや高めであったことで販売面では苦戦する結果となってしまったが、理想的な重量配分や軽自動車並みの小回り性能、そして高い走行性能と俊敏なハンドリングまでも実現していたこのEV専用プラットフォームは、もっと評価されていいと思う。
実現していたら、ものすごく素性のいいスポーツBEVになっていたかも
そこで思い出されるのが、Honda e発表の少し前、2017年の東京モーターショーでホンダが出展していた、「ホンダスポーツEVコンセプト」だ。
当時ホンダは、この「ホンダスポーツEVコンセプト」について、「EV専用のプラットフォームを採用し、扱いやすいコンパクトなボディに、レスポンスのいい電動パワーユニットを搭載、力強く滑らかなモーターによる加速と静粛性、低重心によって、優れた運動性能を発揮する」と説明していた。駆動方式やモーター出力、車両諸元などのスペックは非公開であったが、「人とクルマのこれまでにない一心同体体験をもたらすコンセプトモデル」としていた。
この後に登場したHonda eが、バッテリーを車両中心に置いたリアモーター・リアドライブであったことを考えると、このホンダスポーツEVコンセプトも実現していたとしたら、同じくリアモーター・リアドライブであったと思われ、ものすごく素性のいいスポーツBEVになっていたと思われる。しかもスポーツカーと割り切れば、航続距離のビハインドや若干の価格アップなんて、気にしないで購入する層は一定数あると思われ、Honda eよりもいい結果が残せた可能性は否定できないのではないだろうか。
特に評判がよかったのはエクステリアデザインだ。ワイド&ローの2ドアスポーツカーのフォルムで、ロングホイールベースに大径タイヤを装着。丸目のヘッドライトや黒塗りのフロントグリル、リアのテールライトやその周りのブラックガーニッシュ、迫力のあるリアフェンダーラインやなだらかな曲線を描くルーフガラスなど、シンプルながらも引き締まったデザインは、ひと目で心に残る、ホンダらしいスポーツカーといえるものだった。
いまでもホンダの公式YouTubeチャンネルで動画を確認できるが、コメント欄には、「このデザイン最高!!」 「上から見たボディラインが凄く美しい」 「2000GTかと思った」など、高評価の声が多数。「コンセプトで終わらないでほしい」といった声には、多数の「いいね」がつけられており、このクルマへ大きな期待が集まっていたようすがうかがえる。
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