太平洋戦争中の日本では、敵国であるアメリカやイギリスの言葉を「敵性語」と呼び、それを使わないという運動が起こっていた。そしてその敵性語排斥運動は、クルマ関連の言葉にも及んでいたのをご存じだろうか?
文/長谷川 敦、写真/日産、マツダ、ミシュラン、写真AC、イラストAC、Newspress UK、AdobeStock
■戦意発揚を目的とした言い換え運動
1940年に始まった日中戦争では、イギリスやアメリカは日本に対立する立場になり、彼らの使う英語が「敵性語」と呼ばれ、日本国内から排斥されるようになった。
そして日中戦争から太平洋戦争に突入すると、敵性語排斥はさらに進むことになる。この敵性語排斥は民間から自然に生まれたものと、政府の指導で進められたものがあった。
そんな敵性語の是非や詳細な分類に関しては今回の記事では触れないが、この時点で日本には多くの英語が日常生活でも使われていて、それを言い換える言葉が必要になった。
例えば、野球はすでに人気のスポーツ(「運動」というべきか?)になっていて、「ストライク」や「アウト」「セーフ」などは英語をそのまま使っていた。
しかし、「敵国の言葉を使うのはけしからん」となり、「ストライク」は「よし」、「アウト」は「ひけ」、「セーフ」は「安全」なとに言い換えられた。
現在の感覚でとらえるとバカげた行いにも思えるが、その良否はともかく、生きるか死ぬかの戦時下で戦意発揚のためにこうした運動が起こっていたのは事実である。
もちろん、この敵性語排斥は、海外で誕生し、発展してきたクルマ関連の言葉にも及んでいる。
次の項からは、クルマ関連の外国語がどのように言い換えられたのか見ていこう。
■「エンジン」は「発動機」? 動力関係の敵性語はどうなった
まずはエンジンとその関連用語がどのように言われていたのか?
言うまでもなく「エンジン」は英語由来の言葉であり、当然ながら関連用語には英語やフランス語が多い。ドイツも自動車産業が盛んな国だったが、太平洋戦争時に日本とは敵対していなかったため、ドイツ語は敵性語ではなかった。
●「エンジン」→「発動機」
これは現在でも使われる日本語であり、当時の人にもそこまで違和感はなかっただろう。
●「シリンダー」→「気筒」
これもまた現在でも普通に通用する言葉で、例えば「4シリンダー」というより「4気筒」のほうがしっくりくる人が多い。
●「ピストン」→「吸鍔(すいつば)」
これは英和辞典にも載っている訳語だが、現代人で吸鍔という言葉を知っている人は多くないはずだ。ちなみに「活塞(かっそく)」や「喞子(しょくし)」という言葉もピストンを指していた。
●「キャブレター」→「気化器」
近年のクルマでは見ることが少なくなったキャブレターだが、当然ながら1940年代ではスタンダードな装備だった。この気化器は、字面からイメージできそうだ。
●「ガソリン」→「揮発油」
現在でもガソリン税のことを揮発油税と呼ぶことがあるが、やはりガソリンのほうが通りはいい。
●「オイル」→「潤滑油」
これもまた現在でもメジャーな日本語といえる。しかし、日常使用では「オイル」のほうがなじみがある。
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