■難易度が一気にアップ!? 操作系の敵性語言い換え
続いて運転に直接関わる部位(コンポーネント)の言い換えを紹介する。エンジン回りの用語に比べると、わかりにくさは段違いかも?
●「ハンドル」→「走行転把」(そうこうてんば)
そもそもクルマの操舵を行うコンポーネントを「ハンドル」と呼ぶのは日本固有のもので、英語圏では「ステアリングホイール」が正しい。
とはいえハンドルも英語由来には間違いないので、戦時中は「走行転把」と呼ばれていた。
漢字を見れば何となく理解できるけど、耳だけで「そうこうてんば」と聞いても何のことかわかりにくい
●「アクセル(スロットル)ペダル」→「噴射践板」(ふんしゃせんばん)
これも字面を見れば何のことか理解できそうな用語。「噴射」は「燃料噴射」のことであり、それを行うペダルには「践板」の訳語があてられていた。
●「クラッチ」→「連動板」
マニュアルトランスミッションが当たり前だったこの時代、「クラッチ」はクルマに関する会話のなかで普通に出てくる言葉だった。
そしてその日本語が「連動板」。クラッチの役割を考えれば納得だが、「連動板をつなぐ」はなんだかピンとこない?
●「シフトレバー(ノブ)」→「変速槓桿」(へんそくこうかん)
「変速」の文字があるからシフト関連だとわかるが、「レバー」を意味する「槓桿」という言葉を当時どれほどの人が知っていたのかは不明。
「変速棒」ではないことに理由があったのだろか?
■そのほかの敵性語言い換えアレコレ
最後はジャンルを区切らず、敵性語として言い換えられたクルマ関連用語を紹介する。
●「タイヤ」→「車輪」
これは今でも通じるが、クルマのゴム製タイヤは「車輪」というより「タイヤ」のほうがしっくりくるのは現代ならではの感覚か?
「車輪」と聞くと、どちらかというと鉄道の金属製車輪がイメージされる。実際、敵性語排斥運動下であっても「タイヤ」は普通に使われていたとのこと。
●「ブリッヂストンタイヤ」→「日本タイヤ」
タイヤで知られるブリヂストンは、創業者である石橋氏の名前を英訳し、さらに前後を逆にしたのが社名の由来なのは広く知られている。
太平洋戦争当時は「ブリッヂストンタイヤ」と表記されていたこの社名、戦時中は「日本タイヤ」に置き換えられていた。
なぜ「石橋」ではなく「日本」で、さらにタイヤは英語そのままなのが不思議だが、実際に1942年には社名が「日本タイヤ」に変更されている。
●「エンパイヤ自動車」→「帝国自動車」
アメリカ製自動車のエンパイヤ号をはじめとする自動車関連製品を輸入販売していたのがエンパイヤ自動車。この会社も敵性語排斥運動下では「帝国自動車」に改称していた。
●「ワイパー」→「前面硝子掃除機」
これはワイパーの役割そのものを表しているが、硝子(ガラス)の由来は英語の「glass」であり、ただ漢字にしただけでもいいのかという疑問は残る。
●「キャタピラ」→「無限軌道」
現代でも「無限軌道」という言葉を知っている人は多いと思うが、やはりキャタピラが一般的。戦車にも使われる用語なので、「無限軌道」に言い換えられていた。
最初に書いたように、敵性語排斥運動は民間から自然発生した流れと、政府指導によるものが混在していた。また、現在のような極端な情報化社会ではなかったこともあり、実際には地域差や個人差も大きかったようだ。
こうした敵性語排斥運動は日本だけの現象ではなく、欧米やアジアの国々でも起こったことがある。言葉そのものに罪はないとはいえ、敵対する勢力の言葉は使いたくないのもまた人間の心理にはある。
現在では笑い話にもなる敵性語の言い換えだが、その根底にあるのは、決して笑ってすませていいだけのものではない。
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