そんなにたくさん売れたわけじゃない。でも、何年経ってもみんなが覚えている……そんなクルマを取り上げるこの企画。今回は時代先取りし過ぎのWiLLサイファ。コンセプトだけならもしやテスラ超えかも!?
※本稿は2024年7月のものです
文:小沢コージ/写真:茂呂幸正
初出:『ベストカー』2024年8月10日号
■世が世ならテスラを超えてたかも?
2020年代の今、この新車コンセプトがあったら一体どうなっていたんだろう? そう思わずにいられないのがトヨタ WiLLサイファだ。
知る人ぞ知る20年前の異業種合同プロジェクトから生まれた面白カー。トヨタ、アサヒビール、花王、松下電器(当時)、近畿日本ツーリストほか国内7社が集まり、いろいろなWiLLプロダクトが作られた。
ただし第3弾サイファはかぼちゃの馬車をイメージした第1弾Vi、ステルス戦闘機的だった第2弾VSとはひと味違っていた。
自動車専業とは思えない奇抜デザインは変わらずだが、もうひとつ開発テーマがあり、それはネットワーク社会とクルマが融合する「サイバーカプセル」であること。まさにイマドキITコネクティッドカーの先取りだったのだ。車名のサイファもサイバーとフェートン(馬車)の造語だしさ。
具体的にはトヨタが開発中のテレマティクスサービスG-BOOKを通信機ごと全車搭載。ただし今のネット回線とは違い、ガラケー的接続で容量は限られ、サービスも専用ナビでの渋滞、観光、目的地情報の受信やウェブメールの送受信、盗難追跡ができるくらい。しかし時代先取り度は凄く、ある意味テスラ超えだ。
とはいえ今やG-BOOKは最新Tコネクトが登場して、2022年にサービス終了。サイファのG-BOOKナビは電源こそ立ち上がるが、どこにも繋がらない。ってか繋がってもスマホより遅くて意味がない。ただし、残ってる地図情報を使ってのナビ検索はできる。
■中身はヴィッツなのでパーツ供給も問題ナシ!
なにより面白カーとしての実力は充分だ。骨格は初代ヴィッツで、しかも2005年まで作られていたモデルなので装備はモダン。イマドキの先進安全装備こそないがパワステ、パワーウィンドウ、キーレスエントリーはもちろん、デュアルエアバッグ、ブレーキアシストまで普通に付く。
そしてデザインテーマたるディスプレイ一体型ヘルメットどおりの未来派エクステリアが凄い。
一瞬メインがどこかわからない縦4連ライトは爬虫類的で、全体のヘルメットフォルムもSF映画もビックリの出来。それでいてサイズはきっちり全長4m以下どころか3.7m切りの5ナンバーサイズなので超扱いやすい。
いまだ映画ブレードランナーに出てくるような近未来カーやオールステンレスのデロリアンが欲しい人は多いと思うが、これぞ世界で最も手軽で安心なSFマシン。もちろんあれほど異様ではないけど。
インテリアも素材感は初代ヴィッツの延長で全面ハードパッドで無難。ステアリングもウレタンだし。
ただシフト回りを除きデザインはほぼオリジナルでWiLLバッジの入ったステアリングや半円センターメーター、空調3連ダイヤルが左にまとめられ、丸型大型G-BOOKナビは斬新。
ほどよいアニメ感があり、プレミアムではないけどほぼ20年経た今でも樹脂パネルにヒビ割れはなく、テカテカした生地のシートもほつれやヘタりは一切ない。さすがはトヨタ!
なによりトータル3万台以上売られた実績や発売からほぼ20年目の古すぎず新しすぎずのタイミングもあって車両価格は底値。今回乗った最終年式の距離4.5万キロの上物がたったの27万円。思わず小沢も「駐車場が空いてれば買っちゃおうか」と思ったほど。超手軽に買える未来かもよ。
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