クルマ界のあらゆる不思議に迫ることで一部でカルト的な人気を誇ったかもしれないベストカー本誌企画「不思議でたまらない」。今回は新型イプシロン登場で高らかに復活したランチア。そんなランチアの10年前の話題をプレイバック!(本稿は「ベストカー」2013年7月10日号に掲載した記事の再録版となります)
文:編集部
■イタリアではそれほど衝撃的なニュースでもない!?
昨年(2012年)、ドイツの一部メディアが「フィアットがランチアブランドの廃止を検討している」と報じるなど、ランチア車消滅の噂が絶えない状況。
でも、輝かしい歴史があり、高級車としてのブランド力を持つ名門が本当になくなってしまうとなると、それはとても不思議な話だ。
ランチアは1906年、フィアットの契約ドライバーだったヴィンチェンツォ・ランチアが25歳で独立して設立した自動車メーカー。
戦後は高品質なクルマ作りで知られたが経営的には安定せず、2度目の経営不振となる1969年にはフィアットによって買収。2009年にフィアットがクライスラーを傘下に収め、現在このグループ内でランチアとクライスラーの2つのブランドが同部門で扱われている。
フィアット時代には、大衆ブランドのフィアットに対して、ランチアはアルファロメオと同様にプレミアムブランドの位置づけだった。
そして、かつては「ストラトス」や「デルタHFインテグラーレ」などを生み出したラリーの名門でもある。
それだけに、ランチアブランド廃止の報道は本国イタリアでは衝撃的な出来事のはず。
「フィアットグループのマルキオンネCEOは昨年11月、ランチアブランドの縮小もしくは廃止を示唆しました。これは1916年までの新車投入計画を発表する際に明らかにしたもので、この時に彼は、海外市場でランチアの知名度が極めて低いことを挙げています。
ランチアブランドは、当面の間クライスラー製姉妹車でラインアップを補強する策を続けますが、これからはアルファロメオとマセラティを、プレミアムブランドの柱として、より強化する考えがあるのです。
実はこの報道直後から今日に至るまで、一般イタリア人の反応は“ああ、そうなの”といったところで、あまり衝撃的ニュースには捉えられていません」
とは、イタリア在住コラムニストの大矢アキオ氏。
それほどのショックはないとは意外だ。
現在、イタリアで販売されているランチアは大きく分けて2系統。ひとつめはイタリアで開発されたモデルで、「イプシロン」「デルタ」、そして5ドアミニMPV「ムーザ」の3車種。
もうひとつは北米工場で作られているクライスラーの姉妹車で、「フラヴィア(クライスラー200)」「テーマ(クライスラー300)」、加えてクライスラー版も同名のMPV「ボイジャー」の3車種で計6車種。
“純粋”ランチアは全ラインの半分。それも、デルタは1908年デビューだからすでに5年が経過し、ムーザはすでに生産を終了したモデル。
今年3月のイタリア新車登録台数(Unrae調べ)は、デルタ711台、ムーザ202台に留まり、クライスラー系ランチアはより厳しく、テーマ161台、ボイジャー58台、フラヴィア102台と低迷気味となっている。
大矢氏は「ランチアの存在感はけっして濃くない。そしてイタリア人に聞くとランチアが振るわない背景がわかってくる」と、次のように話を続ける。
「戦前、戦後のランチアを知る高齢者にとって、フィアット吸収後のランチアは“中身が大衆車のフィアットと一緒なんて、往年とは別物”と捉えています。かつてのアリタリアカラーのストラトスや、マルティニカラーのデルタHFインテグラーレといったラリー車を知る年代も、もはや主な購買層ではありません。
2000年代初頭のフィアット危機以降『売れるクルマのうち国産が3割以下』が当たり前の国に育った若い世代は、もはや外国ブランドも含め、より広い選択肢でフレキシブルにクルマを選んでいます。往年の自国の高級ブランドにこだわりはありません」。
【画像ギャラリー】欧州では「廃止」の報道も……輝かしい栄光のイタリアブランド ランチアはなぜなくなるのか?[復刻・2013年の話題](9枚)画像ギャラリー
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