クルマのよさを評価するのにはたくさんの要素が必要。デザイン、エンジン、トランスミッション、インテリア、など多くの要素が複雑に絡み合っていることで、一台のクルマの完成度が決まる。
特に足回りのダンパー、サスペンションなどは評価軸として非常に重要なファクター。マルチリンクでもトーションビームでも、FRでもFFでも、「後ろ足」の動きもよくないとダメなんです。
そこで5人のジャーナリストが唸った「後ろ足」のいいクルマを挙げてもらいました。スポーツカーだけではないその選考から見ても、「後ろ足」の重要性というものがおわかりになるかと思います。
文:松田秀士、斎藤聡、桂伸一、国沢光宏、片岡英明/写真:ベストカー編集部
ベストカー2017年11月10日号「クルマは”後ろ足”で変わる!!」
■本格スポーツカーではやはりこの2車種!!
【国沢光宏選 シビックタイプR】
「後ろ足がダメなクルマ」は多数存在してきた。一番アカンのが「頑張れるだけ頑張り、限界超えたらコントロールできなくなるほどシビアな挙動になる」とい うもの。
典型例は初期のNSXや初代プリメーラ。リアが流れ出したら、もはやお手上げ。ヘタに立て直そうとしてタコ踊りするより、フルブレーキ踏んでスピ ンさせるしかない。
逆に「後ろ足のいいクルマ」ってわかりにくい。後ろ足のグリップが前より高いだけなら、コーナーでアンダーステアとなりツマらんクルマ になる。
ということで「後ろ足のいいクルマ」=「コーナリングバランスよくコントロール性の高いクルマ」と言い換えてもよかろう。
もう少 し掘り込めば「同じクラスのライバルより高いコーナリング速度を確保した上、アクセル開けた時のアンダーステアが少なく、アクセル戻したりブレーキ掛けて 後輪荷重抜いた時は、意のままに曲がろうとする」特性。
最近のクルマで「超いいね!」したのが、新型シビック タイプRである。バランスいい。
ホンダ鷹栖のテストコースは、1G近い横G掛かっているコーナーの途中に、タイヤが路面から離れるようなギャップを作っているのだけれど、そこを通過した 時の前後バランスときたら見事である!
よくセッティングされたラリー車の如く、ドライバーの眼球を揺すり、視界が怪しくなるほどの激しい挙動を出しなが らも、車体の姿勢変わらない。
タイトコーナーはブレーキで荷重移動させてやると、ドライバーの意のままに姿勢を作ることだって可能。すばらしい後ろ足だと 思う。
【片岡英明選 WRX STI】
1980年代、ベンツ190Eのリアサスに魅せられた。それからはマルチリンクの魅力に取り憑かれ、R32スカイラインのコントローラブルさには感激の声をあげたものだ。
最近のクルマは完成度が高く、サスペンションだけでなくタイヤもいいからリアサスの魅力がわかりづらい。
久しぶりに感激したのが、WRX STIタイプSのリアサスペンションだ。ご存じのようにタイプSはビルシュタイン製ダンパーを装着している。夏にマイナーチェンジを行ったが、このときに 足まわりに手を入れ、減衰力の最適化を図った。
フロントストラットのスプリングレートを下げ、リアのスタビライザーは径を1mm細くして いる。
この結果、ステアリングを切った時に気持ちよく鼻先が向きを変えるようになった。旋回している時にアクセルを踏み込んでも外側に大きくはらむことが なくなり、鼻先は軽やかに向きを変える。感激するくらい舵の入りがいいのだ。
可変差動制限機構のマルチモードDCCDが装備されているか ら当然だ、という人もいるだろう。
確かに味付けが変わったことによりプッシュアンダーが減り、狙ったラインに乗せやすくなった。が、リアサスが滑らかに動 くようになったから気持ちよく向きが変わり、優れたトレース性も実現しているのだ。
スムーズにクルマの向きが変わり、荒れた路面でもしたたかな接地フィー ルを見せつける。安定しているだけでなく操っている感も強い、走り屋好みのリアサスペンションだが、不快な突き上げも上手に抑え込んでいる。
■スポーティグレードで選ぶベスト「後ろ足」はこのクルマ!!
【松田秀士選 ランドローバーヴェラ—ル】
最近リアサスが優れていると感じたのは、ランドローバー ヴェラールだった。なかでもボクが特に優れていると感じたのは、上位モデルとなるエアサスを装備したモデル。
エアサスを採用するのは、用途に応じて車高が変えられるからだ。サスペンションを上下させて車高を変化させると、それによって前後サスペンションのロールセンターを結んだロール軸も変化する。ロール軸の上に車体の重心があり、この関係はテコの原理で動いている。
車高を下げると、ロール軸と重心が離れモーメントが大きくなる。これはスプリングを柔らかくしたのと同じになる。車高を上げるとこの逆だ。
ヴェラールは、105km/hを超えると標準車高から自動的に10mm下がる。また、50km/hまでのオフロード走行時には46㎜も車高が上がる。
これほどの上下車高の差を持ちながら、どのようなモードでもリアサスがよく動き、ハンドリングがすばらしいのだ。
フロントもよく動くが、コーナリング中どんなに路面が荒れていても前後のサスペンションが吸収し、しっかりとタイヤが路面を掴んでいた。
さらに、超高速直進性もピタリと路面に張り付いてバツグン。やはり、コストをかけたサスペンションを奢ったクルマはすばらしい。

【斎藤聡選 VWゴルフ7】
ゴルフ7がいい。特に6月マイナーチェンジを受け、全モデル、リアサスが4リンク式(独立式)になって、リアサスの重要さが際立った。
このリアサスのよさは、応答性がすこぶるいいことだ。ハンドルを切り出した直後にリアサスが仕事を始めている。リアサスの応答に遅れが出ると、ノーズだけがグイッと動くようなしぐさを見せる。
ところがリアサスの応答が速いと、リアサスにも曲がろうとする力(ヨー)が発生するので、フロントの動きに追従して、クルマの動き自体はマイルドになる。
ゴルフ7でカーブを曲がろうとハンドルを切り出すと、鋭さはないのにスーッと思いどおりに向きが変わるのは、リアサスの応答のよさからきているのだ。ではなぜ、同じサスペンション形式のゴルフ6と、操縦性の面で大きな違いがあるのか?
違うのはプラットフォームだ。MQBと呼ばれる、とてもお金のかかったプラットフォームを開発したことが、理由のひとつに挙げられる。ボディワークもレーザー溶接を積極的に使い、応答性のいいボディを作っていることが大きな要因と言っていいだろう。
結局のところリアサスのよさは、リアサスを積極的に使おうとする考え方を元に、ボディやシャシーまで手を加え、積極的にリアサスに仕事をさせるようチューニングして初めて効果が得られるものなのだろう。
当然リアサスもトーションビームではなく、マルチリンクタイプ(ゴルフの4リンクもマルチリンク式)の独立式がいいということが言えるのではないかと思う。
【桂伸一選 スイフトスポーツ】
「うーん凄い!!」と唸ったのは1980年代後半、メルセデス・ベンツ190Eのマルチリンク式リアサスだった。当時のタイヤのグリップレベル(低い)も大きく関係するが、コーナーでビヨーンと伸びるイン側。
沈むアウト側リアタイヤが路面を掴み駆動力を伝え、姿勢を整え、乗り味を滑らかにする。いっぽう、FFモデルではいまだにVWゴルフのトーションビームの、”あの”イン側を浮かせて3輪になりながらも決して流れない安定性を凌ぐビームサスはないかも!?
しかし、時代は変わった。直近の国産ではトヨタの新たなプラットフォーム「TNGA」で作られた4代目プリウスやC-HRに乗って驚いた。
リアサスをビームからダブルウィシュボーンにしたことも大変革で、前後サスがバランスよくスムーズにストロークしながら衝撃を吸収~減衰させると、クルマの走り、動き、乗り味はこんなにも自然で滑らかになる、と言う意味で。
それがダブルウィシュボーンの恩恵だと言えば、そうとも言えるし、違うとも言える。
プリウスは前3世代まで、リアサスはビームであり、3世代目後期型はかなり滑らかになったとはいえ、やはり角の硬さ、尖りは確実にあった。ホンダはシビックでマルチリンク化してTNGAに並ぶ。じゃあ、ビームでいいものはないのか? ……ある!!
「アクアGRスポーツ」と、締め切り直前に乗った新型「スイフト・スポーツ」はゴルフとは違うが日本も〝やればできた〟と感じることができた。各形式のベストカーはこのような感じだ。