究極のポルシェ 911カレラRS 試乗 【徳大寺有恒のリバイバル試乗記】

究極のポルシェ 911カレラRS 試乗 【徳大寺有恒のリバイバル試乗記】

 徳大寺有恒氏の美しい試乗記を再録する本コーナー。今回はポルシェ911カレラRS2.7を取り上げます。

 軽量化されたボディに強力な2.7Lエンジンを搭載した911カレラRS2.7は、1973年から始まる世界選手権のグループ4スペシャルGT(2.5~3L)のホモロゲーション(選手権出場に必要な認定)を得るために、1972年と1973年の2年間に1580台が生産され、わずか十数台が日本に正規輸入されたという伝説のモデル。

『サーキットの狼』世代なら主人公、風吹裕矢のライバルである早瀬左近の愛車として記憶している方も多いはず。今では最高のポルシェ911との呼び声が高い通称“ナナサンカレラ”の、徳さんの評価はどんなものだったのか?

『ベストカーガイド』1979年5月号の試乗記を振り返りましょう。

※本稿は1979年4月に執筆されたものです
文:徳大寺有恒
初出:ベストカー2017年12月26日号「徳大寺有恒 リバイバル試乗」より
「徳大寺有恒 リバイバル試乗」は本誌『ベストカー』にて毎号連載中です


■FIAのレギュレーションに応え、全てを超えた最強のポルシェ

 1972年、ポルシェは新しいFIAのレギュレーションに合わせるべく、1台の高性能車を計画した。FIAの規則はボアアウトの限度(2.4Lなら2.5Lまでで、当時の911は2.4Lだった)であり、軽量化の限度(標準車と同じと定められた)であり、オーバーフェンダーの限度(最大2インチまで)などであった。

 この厳しいレギュレーションの下でポルシェ911がレースコースで絶対的な優位を保つためには、どうしても新しい高性能車を限定生産する必要があった。そして誕生したカレラRS2.7は、生産型ポルシェ911のなかで、最強のモデルだった。

300㎞/hまで刻まれたスピードメーターに痺れる
300km/hまで刻まれたスピードメーターに痺れる

 当初500台の予定だった生産台数は3倍以上の1580台に上った。いうまでもないが、カレラとは「競争」という意味でRSはレンシュポルト(英語ならレーシングスポーツ)になり、このクルマがレースを想定していたことがわかる。

 カレラRS2.7の最大の特徴はパワーユニットだ。2Lで登場したポルシェ911だが、設計時点から2.7Lまでは拡大可能と見込まれていたのだ。90mmにボアを拡大したこのエンジンの大きな特徴はレーシングカーの917にも使われたニカシルと呼ばれる合金のシリンダーにある。極薄いニッケルとシリコンカーバイトの電気メッキ層を持つニカシルは鉄のライナーよりも遙かに軽く、すばらしい摩擦特性を持つ。

一見、普通の911と変わらないが小径になったステアリングや300km/hまで刻まれたスピードメーターなど細かな点で異なる
一見、普通の911と変わらないが小径になったステアリングや300km/hまで刻まれたスピードメーターなど、細かな点で異なる

 メカニカルインジェクションが付き、最高出力210ps /6300rpm、26.0kgm/5100rpmというすばらしいスペックを発生した。このパワーを路面に余すことなく伝えるためにタイヤは前185/70VR15、後215/60VR15となり、ポルシェとして初めて前後のサイズが違うタイヤを装着した。

 さらに空力を味方に付けるべくフロントに小さくないチンスポイラーと後ろのエンジンフードはダックテールと呼ばれる独特のスポイラーが標準で装着された。

大きく張り出したリアフェンダーとダックテールと呼ばれる一体型のFRP製エンジンフードが大きな特徴。タイヤサイズはフロントが185/70VR15でリアは215/60VR15だ
大きく張り出したリアフェンダーとダックテールと呼ばれる一体型のFRP製エンジンフードが大きな特徴。タイヤサイズはフロントが185/70VR15でリアは215/60VR15だ

■フレキシブルなエンジン特性に驚く

 カレラRS2.7の最高出力は210馬力だ。リッターあたり77.7馬力と相当なハイチューンエンジンだ。私はかつての2L時代の911Sをよく知っている。今となってはなんとも懐かしいが、4000rpm以下では全く用をなさずドライバーは絶えずシフトレバーをこねくり回す必要があった。カレラRS2.7のエンジンはこれよりはいいだろうと思っていたが、そのフレキシビリティに驚かされた。

 多くの本や雑誌にも書かれているが、実際に乗ると本当に度肝を抜かれる思いなのだ。サードに入れておけば、それこそ止まりそうなスピードから160km/h以上までスムーズに吹け上がるのだ。都内の渋滞路でもエンジンのむずかりは全くなく、ブルーバードやコロナのように走る。

それまでの2.4ℓエンジンのボアを84㎜から90㎜に拡大し2.7ℓとしたもので、最高出力は20ps、最大トルクは4.0㎏mもアップした
それまでの2.4Lエンジンのボアを84mmから90mmに拡大し2.7Lとしたもので、最高出力は20ps、最大トルクは4.0kgmもアップした

 確かにクラッチはポルシェのなかでも、重いほうだが、オーバーセンタースプリングによって、パフォーマンスに比べると軽いといわざるを得ない。もとよりスティアリングは軽く、ドライバーが受ける肉体的な難行苦行が全くといっていいほどない。

 この大人しいドクタージキルがハイドに変わるのは4000rpmをレブカウンターの針が超えた時からだ。カレラ特有の“カーン”という金属音とともに、完全にカムに乗る。ドライバーはバックレストに押しつけられ、スピードメーターの針はあっという間に非現実的な世界へと突入する。特にすばらしいのはサードギアの加速で、これだけでも買う価値がある。ターボのほうが加速はすごいが、甲高いエキゾーストノートとスロットルレスポンスははるかにこちらに分がある。

オイルクーラーが内蔵可能なフロントスポイラーを持ち、前後バンパーはFRPとなる。さらに軽量化のためフロントウィンドウは薄い安全ガラスを採用
オイルクーラーが内蔵可能なフロントスポイラーを持ち、前後バンパーはFRPとなる。さらに軽量化のためフロントウィンドウは薄い安全ガラスを採用

 今回谷田部での最高速テストを行ったが、230km/h近いスピードでもコックピットは平穏だった。さらにいうならリラックスできるほどだった。気をよくした私はスキッドパッドに持ち出し、スティアリング特性をチェックした。するとどうだろう、スロットルのデリケートなコントロールでテールの流れを自在にできるではないか。

 ポルシェのコントロールの難しさはいうまでもないが、正直限界付近で、しっかりとコントロールできた初めての911であった。6年前のモデルだが、なんともファンタスティックな体験をさせてもらった。こいつは最高のロードカーの1台に違いない。

休憩中、風にあたる徳さん
休憩中、風にあたる徳さん
911カレラRS2・7にはツーリング、スポーツ、レーシングと3つのバージョンがありツーリングが標準、スポーツは960㎏に車重が抑えられたモデル、レーシングは足周りまで違うレース仕様。生産台数はツーリング1324台、スポーツ200台、レーシング56台、あわせて1580台とされる
911カレラRS2.7にはツーリング、スポーツ、レーシングと3つのバージョンがあり、ツーリングが標準、スポーツは960kgに車重が抑えられたモデル、レーシングは足周りまで違うレース仕様。生産台数はツーリング1324台、スポーツ200台、レーシング56台、あわせて1580台とされる

◎ポルシェ911カレラRS2.7(ツーリング仕様)主要諸元
全長:4147mm
全幅:1662mm
全高:1320mm
ホイールベース:2271mm
エンジン:水平対向6気筒SOHC
排気量:2687cc
最高出力:210ps/6300rpm
最大トルク:26.0kgm/5100rpm
トランスミッション:5MT
車重:1075kg
サスペンション:ストラット/セミトレ
※グロス表記
※エリートスポーツでの当時の販売価格は495万円

谷田部でのテストデータ
0~400m加速:14秒77
最高速:225.71km/h

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