劇的に変貌した「EX」の走り
三菱ふそう喜連川研究所で、eキャンターEXの荷台長6.2mウイング車に試乗することができた。パブコ製ウイングボディに加えて床下格納式テールゲートリフタも架装するため最大積載量は1.8トン。試乗時はフル積載・大人2名乗車でまさしくGVW8トン状態だ。
eキャンターEXは、格下のGVW7.5トン・積載量3~3.5トン系eキャンターと同じ定格出力150PS・最高出力175PS/最大トルク430Nm(43.8kgm)のS40型永久磁石式モーターを搭載する。最高出力・最大トルクとも数値自体はディーゼルEXと同じだが、アクセルペダルを踏みこめば猛烈な加速性能を発揮し、時速0→60kmはあっという間。登り坂を苦もなく駆けあがるなど、走りの違いは圧倒的だった。
それ以上に有意義だったのが「停まる性能」だ。フットブレーキで作動する油圧式総輪ディスクブレーキもディーゼルEXと共通だが、eキャンターEXには電動車ならではの補助ブレーキである「回生ブレーキ」を装備する。これは、タイヤ転動のエネルギーでモーター内部の回転子を回し、その際の起電力による回転抵抗を、制動トルクとして利用するものだ。もちろん電力も得られる。
回生ブレーキの制動レベルは、「B0(回生ブレーキなし)」「B1(エンジンブレーキ相当の弱い回生ブレーキ)」「B2(排気ブレーキ相当の回生ブレーキ)」「B3(強い回生ブレーキ)」の4モードで、B3は、ディーゼルEX以上の強力な制動力が得られるモードである。
もっと高めたい快適性
実用上ディーゼルEXの制動性能も十分なのだが、唯一の補助ブレーキたる排気ブレーキは、排気量の点から「4トン車」(5~8リッター級エンジン)と比べるとやはり物足りない。ところがeキャンターEXのB3モードは、試験路にある勾配12%の下り坂でも強力な制動性を発揮してみせ、「小トラベースのGVW8トン車」というイメージを軽く覆すものだった。
しかもB3モードを選択したままなら、発進・走行から加減速、停止直前までをアクセルペダルのみ、いわゆるワンペダルオペレーションで走らせることができ、その制動力を常に活用できる。フットブレーキの出番は完全停止時と緊急時くらいだろう。それだけ強い制動力が伴うため、B3モードでアクセルペダルを緩める減速操作を行なうと、ブレーキランプが点灯するようになっている。
シャシーフレーム下には、容量40kWhのLFP(リン酸鉄リチウム)電池モジュール×3基を搭載している。これが国交省審査値で324km(60km/h定地走行モード)という航続性能を実現すると同時に重量増の要因でもある。しかし重心高の引き下げという意味では、ディーゼルEXの腰高感を抑える方向に働き、その点でも「EXの電動化」はポジティブである。
もちろん、登り坂(試したのは勾配10%)での発進・停止の繰り返しや微速走行がたやすいことと、静粛な運転環境は、EVの美点そのもので、ドライバー就労環境を改善するだろう。一方、GVW8トンを支える足回りの高い剛性感は頼もしいが、ちょっとした段差を律義に伝える乗り心地はややハードに感じる。オプションの磁気サスシートには未試乗だが、走りと運転環境が快適なだけに、4トン車クラスで増えているエアサスが欲しくなってしまった。
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