■東京ドーム19個分の敷地で繰り広げられるテスト
2021年2月、筆者は旭川にある横浜ゴムの北海道タイヤテストセンター(TTCH)の屋内氷盤試験場を訪れた。ちなみにTTCHは総敷地面積が91万平方メートル、東京ドーム19個分もあるという敷地内に100km/hを超える速度でも高速走行試験が行える周回路をはじめ様々な圧雪、氷盤、ハンドリング路などを完備。
そんななかでとりわけ目を引くのが屋内氷盤試験場だ。なかに入るとその広さに驚かされる。2020年に新設されたこちらは建築物としてもこだわりが強く、全長119m、全幅24m、室内高(最高部)8.8m、延床面積は2859.6㎡の広さを持つ鉄筋造。特徴的なのが降雪にも耐えうる建物中央部に柱を持たない構造であるということ。
トラックやバスの試験も行うために全長も長く、乗用車なら併走で3台が走行可能だという。そんな試験場もこれまでは旭川の寒い天候を活かして自然に頼って氷盤をつくり試験をしていたのだが、2020年の11月、テストレーンのひとつにアイススケートリンクで採用されている冷媒装置を設置。氷盤の温度が-10℃~0℃の範囲でコントロールできるようになった。
雪や雨をしのぐことができる屋内で、さらに氷の温度を調整したテスト、データの取得が可能になったのだ。
「氷の温度によって制動距離が変わることはわかっていました。そこで温度が変わると制動距離はどう変わるのかという確かなデータを取り、“どの温度領域でも確かな性能を発揮できる”タイヤ開発がしたかった」と横浜ゴムの取締常務執行役員/技術統括である野呂さんは言う。
氷上の路面温度は低いほど制動距離は短く、0℃付近がもっとも水が浮きやすく滑りやすいという日本の冬道の特徴に注目し、0℃付近でいかに制動性能を発揮できるかを重視したデータの構築にも取り組んだそうだ。
天候に左右されず狙った温度領域でのタイヤの性能データ取りが可能になったことは“美味しい”性能を探す効率向上にも繋がる。
屋内氷盤試験場の開設前は屋外でデータを取る際、開発者が屋外の氷盤試験路の横に立って天候の様子や変化も記録しつつ、制動距離が長かったときは、“陽が差してきて水がのっていました”や、短かったときは“曇ってきて風が吹いたので氷の表面はさらさらになった”など記録しながら何度もデータを取り、標準化し整理をしていたそうだ。つまり屋内で試験ができるだけでもデータの質=精度も取得効率も上がったことは明らか。
さらに、「屋内で氷の温度調整が可能になれば安定したデータ取得の効率アップはもちろん、テストのスタート時期を早めて開発の時間に余裕が持てるようになります」と野呂さん。
■ユーザーが求める氷上性能に応えるために続く最先端の開発
日本の冬道での安全運転を支えるスタッドレスタイヤにユーザーが求める性能の第一位は氷上の制動性能。
例えば新製品であるiceGUARD7の幅広い温度で「氷に効く」というiceGUARD史上最大の接地面積やブロック剛性の確保も、氷とタイヤの間に発生する水膜を効率よく排水できる「ダブルマイクログルーブ」のような溝の新開発技術も、iceGUARD7専用のゴムのシリカやオレンジオイルS、氷や雪を噛む効果を発揮するマイクロエッヂスティックetc、使用する原料もその配合技術もそれらどれかが飛び抜けて優れているだけでは高性能な一本のスタッドレスタイヤにはなり得ない。
屋内氷盤路で氷盤温度の異なる二種類の路面で制動性能を試させていただいた。
屋内の気温は-4.3℃。ひとつのレーンは冷媒装置によって-9.2℃に温度を低められ、もうひとつのレーンは自然氷結による-1.7℃というコンディション。そこをプリウスに装着されたiceGUARD7と先代のiceGUARD6の制動性能を比較したのだ。
高い氷温の路面に比べて、低い氷温の方はブレーキングを始めた瞬間の「クッ」と食いつくような制動感と制動していく過程の効き具合も優れていた。旧商品と新商品の比較テストも行ってみた。新商品の性能向上はどちらの氷温の路面でも感じ取れたが、低い氷温の路面の方が、制動距離もフィーリングの差も少なくなっていたことが印象的だった。最新モデルの性能を確認できたのはもちろんだが、とにかくこんな風に屋内で異なる温度の氷盤で試験ができるってやっぱりすごい!
横浜ゴムの冬道に“効く”タイヤ開発は、新世代タイヤのiceGUARD7からまた新たなチャプターに入ったと言ってもよさそうだ。
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