ギザギザが空気の渦を切り刻む
N-BOX組の後ろについて、試乗コースへと向かってみた。ルートには高速コーナーなどひとつもない。カマボコ状の段差や大通りへの合流を模したクランク、低速コーナーといった日常的な光景が広がるのみ。ここで空力の違いが分かるというのか?
N-BOXに装着する実効空力デバイス(非売品)の素朴さにも驚いた。片側にギザギザの切れ目を入れた細長い板状のマグネットだ。参加者はまずこのデバイスを付けずに走り、そのあと自らN-BOXのルーフエンドにデバイスを装着してもう一度試走する。
参加者に感想を聞く前にその原理を説明しておこう。自動車は空気の中を切り裂いて走るわけだが、その時の自動車の後方には車体から剥離した空気による渦ができる。この渦はクルマを引き戻したり浮かせたりする「走行抵抗」になるわけだが、うまく処理することでその影響を抑えることができる。その役割を担うのが、「実効空力デバイス」というわけだ。
実効空力デバイスの後ろ側にあるギザギザを、ホンダアクセスでは「シェブロン(鋸歯)形状」と呼んでいる。このシェブロン形状は車体から剥離した空気をこまかく砕き、渦を微小なものにする効果を持つ。すると走行の邪魔をする抵抗が減ってリアタイヤの接地性が上がり、フロント寄りだったクルマの荷重が4輪に均等に近づける。その結果、サスペンションが本来持つ能力を引き出し、乗り心地がしなやかになり、横風や段差といった外乱に強くなるといった効果が生まれるわけだ。
この原理は、シビックタイプRに用意されたテールゲートスポイラーでも基本的に変わらない。ただしこちらは市販品とあって、実効空力デバイス以外にもスポイラー本体の形状にもいくつかの機能が組み合わされている点がミソ。
スポイラーの形状を見てみよう。翼面の中央付近だけが後方に跳ね上がるガーニーフラップ形状となり、両脇はあえて空気を逃がすフラットな形状になっている。これは直進時のダウンフォースを翼面中央付近で稼ぎつつ、ステアリングを切り始めるときの「引っ掛かり」をなくすためにあえてなされた造形だ。
いっぽう翼面裏側をのぞいてみると、N-BOXの実効空力デバイスと同じシェブロン形状のギザギザが刻まれている。このギザギザがスポイラー下方を流れる乱れた空気を直進時にも旋回時にも追従して整流し、これまたリアの接地性を改善するのだ。これにはスポイラー両端にある翼端板も一役買っていて、Aピラーからウインドウ側面を流れてきた空気はこの翼端板が整える効果を担う。シビックタイプR用純正アクセサリー・テールゲートスポイラーは、ホンダアクセスが追求する「気持ちいい」乗り味を得るためにあえてノーマルとは異なる形状となった。赤い繊維が織り込まれた美しいドライカーボン製だが、メチャクチャ軽く、なによりもカッコイイ!
ほぼ全員が実効空力の効果を実感!
試乗を終えた人にいろいろと話を聞いてみた。まずはN-BOXから。
「上から引っ張られている様な感覚キャビンのグラつきがゆっくりになり好印象(30代男性)」
「段差乗り越えたあとのポヨポヨ感が少なくなって驚きました!(20代男性・同乗者)」
「大きなカーブを40km/h低速で曲がる時の比較ですが、デバイス無しではアンダーによりステアを切り足す方向に調整するのに対し、デバイス有りでは車がどんどん曲がっていこうとするのでステアを切り戻す方向での調整となりました。また、S字カーブでは20km/hでの比較ですが、ハンドル切り返しでの車の動きが腰を落としたような感覚に変わりまるでサスを変えたような乗り心地でした。(30代男性)」
「最初は半信半疑だったが、ちゃんと変化していて驚いた(40代男性)」
「ロールが減ったコーナー中にベタ踏みしてもタイヤが逃げる感覚が減り、アンダーが消えるような違いがあった。コーナー全開時に怖さが無くなった。段差を乗り越えた際の収束が良くなった(20代男性)」
ではシビックTYPE Rはどうだろう。こちらの試乗コースも市街地やワインディング、荒れた路面など日常シーンを模したものだが、平均車速はN-BOXよりも高めではあった。
「リアの安定感が高いコーナリング中のダンピングの収まりが良い(30代男性)」
「後ろに力がかかっているのが感じられた(30代女性・同乗者)」
「リアの接地感が増すと伺っておりましたが、正にその様な感覚でした。おぼろげだったリアサスのストロークがしっかりと感じられる様な、とても不思議な感覚でした。空力って面白いです。(30代男性)」
「減衰の収束に加え、舵角の少なさに驚いた。(50代男性・同乗者)」
「クランク状の切り返しの動きがスムーズになった。段差を乗り越える時の衝撃が小さくなった。(60代男性)」
今回は19組36名の方が参加されたのだが、シビックタイプRとN-BOXともにアンケートに答えてくれた29名のうち27名が「実効空力を体感できた」という素晴らしい反応を得られた。ホンダアクセスが15年近く取り組んできた実効空力への取り組みが、見事に結実した結果といえるだろう。
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