さまざまな特装車を紹介する「働くクルマの大図鑑」。今回は飲料輸送のスペシャリスト「ボトルカー」を紹介する。街で頻繁に見かける身近な特装車、ボトルカーの知られざる秘密とは?
文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部
※2024年12月発売「フルロード」VOL55より
全国約220万台の自販機の稼働を支えるボトルカー
日本は世界屈指の自動販売機(自販機)大国である。たばこや食品を含めた自販機全体の台数は約350万台で、約650万台のアメリカについで世界で2番目に多い。人口比率ベースだと世界一だという。
この日本の約350万台の自販機のうち2/3を占める約220万台が飲料水用。そしてその飲料水用の自販機の稼働を支えているのが、今回紹介するボトルカーだ。
ボトルカーは、小売店や飲食店、商業施設、企業の構内、駅や高速道路のPA/SA、さらには街の至る所に設置されている自販機への商品配送業務を行なうクルマ。
荷台には、飲料が入ったケースが配送先ごとに整理して積み込まれており、ルーフ部に自販機併設のリサイクルボックスから回収した廃容器を収容するための「廃カップ」が備わるものが多い。
近年はコンビニエンスストア店頭での飲料水販売が台頭し、コンビニ配送用のトラックで他の商品と一緒に飲料を配送する例も増えているが、各地の自販機の商品補充を効率的に行なうにはボトルカーが不可欠。
自販機の設置台数は直近20年で徐々に減ってきてはいるものの、これは今後もしばらく変わることはないだろう。
見た目は似ていても多種多様なボトルカーの荷台
ボトルカーは重い飲料水を運ぶため、小型トラックのなかでも積載量に余裕がある3トン積クラスがベースに用いられる。積載性や荷役性を考慮して全低床シャシーが基本とされるが、幅や長さは運行エリアによってまちまちだ。
荷台は荷室内を仕切り板でいくつかの部屋に分け、棚を設置したものが主流。標準仕様は存在せず、仕切り方や部屋数、ドアの種類などの「仕様」はユーザーである飲料メーカーによってバラバラである。
そんなボトルカーの原点は、1960年代頃に登場した「ラック車」とされる。ラック車はガラス瓶ケースを運搬するクルマで、積み荷がガラス瓶から缶、さらにPETボトルへと変化するなかで、棚や荷室の配置、ドアの設計などが変化していき、現在のボトルカーに進化していった。
ちなみにトラック車体メーカーの業界団体・日本自動車車体工業会では、「バン型車体」のなかの「ボトル運搬車」のなかでも「主に清涼飲料水を自動販売機や小売店に配送する車両」を「ベンディングカー」と分類している。
今回の記事では広く知られていると思われる「ボトルカー」で呼称を統一したが、地域などによってはボトルカーのことをベンディングカー、ルートカー、ルートサービスカーと呼ぶ例もあるようだ。
知られざるボトルカーの荷台内部を覗いてみよう
ボトルカーの過去10年の生産台数は年間1200〜1400台で推移しており、比較的安定した需要がある。メーカーは須河車体(京都)、東洋ボデー(東京)、北村製作所(新潟)、札幌ボデー工業(北海道)、ベンテック(神奈川)などが代表的だ。
ボトルカーの荷台内部はどうなっているのか? 「見た目は似ていても実は多種多様」なボトルカーから代表的な1台を選ぶのはむずかしいが、今回は国内ボトルカー販売シェア7割ともいわれる須河車体が、大手飲料メーカー系販社向けに製作したボトルカーをモデルに紹介しよう。
ベース車両は2024年型マツダ「タイタン」のワイドキャブ/ロングボディ/フルフラットローで、荷台は5室に仕切られた荷室と、仕様となっている、比較的標準的な仕様となっている。
荷室は、引き違い式ドアを持つメイン荷室(左右各2室)と、跳ね上げ式ドアを持つリア荷室で構成。荷室フロア(床)は飲料ケースが積みやすく、左右方向の安定性も保ちやすいV字底になっており、カート用ラックや台車収納などを備える。
独立したリアの荷室は缶ケースや補充頻度が比較的少ない商品用で、商品を細かく整理できる小分けの棚のほか、貴重入れが備わる。廃カップには雨水や汚水を排出するドレン(手動コック付)を装備する。
ボトルカーは飲料メーカーにとり、消費者に商品を告知する「動く看板」であると同時に、企業の社会活動を示す媒体でもある。もし時間があれば、さまざまなボトルカーの荷台に描かれたグラフィックを、ゆっくり眺めてみてはいかがだろうか?
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