2種類のバイオ燃料
2種類のバイオ燃料のうち、「バイオディーゼル」は脂肪酸メチルエステル(FAME)を含む燃料のことだ。
FAMEはディーゼルエンジンで燃焼できるが、化学的な性状は石油から作る軽油とは異なっており、一般的に軽油に混合して用いる。たとえば「B5」バイオディーゼルは、軽油に対してバイオディーゼルを5%含む燃料で、「B20」なら同6~20%含む燃料となる(米国での定義)。
バイオディーゼルは植物油や動物性の脂肪を加工して製造するが、最終的な処理を経ても酸素を含むためエネルギー密度が低く、エンジン部品に対する腐食性がある。また燃焼時のNOx排出量が軽油より増える可能性も指摘されている。
FAMEの比率が高いほどエンジンへの負の影響が大きく、エンジン側の改修が必要となる。このため従来のトラックでそのまま使えるわけではないのだが、最近、ボルボなど一部のメーカーは100%バイオディーゼルの「B100」燃料への対応を発表している。
いっぽう、「再生可能ディーゼル」ことRDは化学的な性状を軽油と同等にしたバイオ燃料のことだ。このためRDは任意の比率で軽油に混ぜることができ、また100%バイオ燃料としても用いることができる。
RDは従来型のトラックにそのまま給油できる「ドロップイン燃料」である。
RDの製造方法は複数あり、代表的な方法は水素化処理だ。廃棄物やバイオマスから製造した油脂に高温で水素を反応させ、高圧をかけて水と酸素を除去する方法で、RDとして商品化するにはさらに追加の処理が必要になる。
特にドロップインという特性は運送会社にとってメリットが大きく、車両やインフラにあまりコストを掛けられない中小企業であっても、従来の仕事を続けながら脱炭素の取組を進めることができる。
2023年、米国の輸送セクターの軽油消費量は464億ガロン(2100億リットル)だった(RDやバイオディーゼルも含む)。このうち77.8%(1634億リットル)がトラックによる消費だそうだ。そして、米国内で325万台が走っている長距離輸送用の大型トラクタが1273億リットルを消費している。
ディーゼル燃料に混合するバイオディーゼルは、トラック業界で広く使われてきた。しかし、近年はRDの使用量が急増しており、2022年にバイオディーゼルを抜いた。併せて米国内での製造量も急速に増えている(従来は欧州などからの輸入が多かった)。
米国の2023年のRD消費量は28億ガロン(106億リットル)となった。これは前年比で66.9%、2018年比で500%の急増で、米国のトラック業界でRDのブームが起きていると言えるだろう。
CARBの報告(2022年)によるとRDの約7割がカリフォルニア州で販売され、州の低炭素燃料助成金の対象となった。世界のRD消費は2023年に36.9億ガロンと推定され、実に77%が米国内で消費されている計算となる。
RDには「世代」がある?
RDは一般に、その原材料により第1世代から第4世代に分類される。この分類は研究者等によって若干の差異が認められるものの、おおむね次のようなガイドラインに従っている。
第1世代 : 食用作物を原料とするRD。原料には大豆油やDCO(トウモロコシからアルコールを醸造する際に副産物として製造される食用油)などがある。こうした原料は「食用バイオマス」とも呼ばれ、食品の供給と直接的に競合するため、第1世代RDの需要が増えると食料品の価格高騰を招く可能性がある。
第2世代 : 食用作物をそのまま原料にするのではなく、その廃棄物を原料とするもの。廃棄される食品(生ゴミ)のほか、農林業の余剰生産分なども含まれる。代表的な原料はUCO(使用済み食用油)など。「非食用バイオマス」とも呼ばれる。
第3世代 : 藻類やシアノバクテリア(ラン藻類)から取り出すバイオマスで、これらの生物の中にはアルコールや油脂を生産する種があることが知られている。現在は大規模な実用化に向けた研究開発段階にある。「藻類バイオマス」とも呼ばれる。
第4世代 : 研究段階のRDで、遺伝子編集技術により藻類等の燃料生産性を飛躍的に高めたり、望ましい性状の油脂を生産するもの。
今日、大量生産され一般的に入手可能なRDはほぼ第1・第2世代燃料に限られている。CARBはカリフォルニア州で消費されたRDを原材料までトレースしており、28%がUCO、25%が牛脂、21%がDCO、18%が大豆油となっているそうだ。
米国でのRD消費量の急増により国際貿易にも変化が生じている。農業大国とされる米国だが、米国農務省(USDA)が2024年6月に公開したレポートによると、今や油脂類の輸入額が輸出額を大幅に上回り、たとえば大豆の場合、2023年に純輸入国に転じた。