90キロのデメリットは?
最高速度が90キロになることは、もちろん労働時間の短縮につながる。だが、そのいっぽうで、交通事故を起こした時の破壊力は大きくなり、タイヤバーストや故障のリスクも増え、燃費も悪化、ひいては温室効果ガス排出量削減にも悪影響がある。
また、80キロ走行は荷傷み防止、道路の損傷防止にもつながる。最近は乗用車でも高齢者などでゆっくり走るドライバーもいて、そうしたドライバーにとっては大型車が飛ばしているのは恐怖感があるだろう。
警察が90キロを認めた背景には、衝突被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)の普及もある。だが、自動ブレーキを装備したトラックでも高速道路での追突事故や渋滞最後尾への衝突事故はまだ多く、自動ブレーキを完全に信頼することはできない。つまり、運転はまだ自分自身が頼りなのである。
路上故障が増えると、そこへの追突事故というのも気を付けなければならない。90キロ引き上げは、もうひとつ、労働強化にもつながりかねない。
走行時間が短縮されると、短い時間で走るのが当たり前になり、到着時間の設定を早められる恐れがある。そうすると、途中で眠たくなっても休憩を取ることができず、運転をし続けなければならなくなる。
ただでさえ「430休憩」や「9時間休息」のルールで働き方を縛り付けられており、機械のような働き方をしなければならなくなる。
人間が一番眠たい深夜の2~4時には、今でも重大事故が多い。また、今後もしリミッターの速度自体が95キロや100キロに引き上げられるとしたら、私は反対である。
首都高の海底トンネルや名阪国道、国道4号などを100キロで走るトラックが出れば危険極まりない。交通行政というものは、最悪の使い方をする人のことを想定していなければならない。
良い運転とは
基本的なことから言えば、乗用車の運転とトラックの運転の違いは、乗用車は速度が変わりやすく、トラックは速度一定を保とうとしている点だ。速度一定のほうが燃費も良く、目的地への時間が読める(定時性)。
乗用車の場合は、気ままなドライブで速度一定の必然性もないが、交通量が多い場合は弊害も出て来る。例えば、上り坂で速度が低下すると、周り全体の速度低下を引き起こし渋滞の原因ともなる。
だから、乗用車を運転する際もスピードメーターを頻繁に見て、速度一定に努めたほうがよい。運送会社の運行管理者は、タコグラフやデジタルタコグラフで、ドライバーがどういう速度配分で運転しているかチェックすることができる。
ここでも、「速度一定が素晴らしい運転」とされる。しかしながら、これには少し誤解がある。実際に高速道路上に出てみると、速度を全く変えない運転も、周りに迷惑を及ぼす。
つまり、トラックどうしの追い越し時に、速度差が1キロとか2キロといったように小さいと、長時間横並びの並走状態になってしまい、後続車の流れを堰き止めてしまう。
また、大型貨物やけん引で3車線横並びになっているのも目にするが、首都高湾岸線などを除き、片側3車線の高速道路のほとんどでは追越車線(第3通行帯)の大型貨物とけん引走行は禁止されている。車線指定区間には標識が出ているので確認するとよい。
ほんとうに良い運転というのは、追い越すときはプラス約5キロの加速をして速やかに追い越しを完了させ、追い越される場合は2~3キロ速度を落とし追い越されやすくすること。
双方がこれを実践すると、驚くほどスムーズに追い越しが完了する。速度一定の中にもメリハリを付けることが重要だ。1キロ差での追い越しなどは論外だ。
社速の関係で加速できないのなら、無理な追い越しはせずに、車間距離を取って前車に追従する。よく、低速車どうしで追い越しができずに車間距離が詰まっているのを見るが、玉突き衝突の原因となる。
どうして追い越しを早く終わらせたほうがよいかというと、車線上に故障車両や落下物が急に現れた際に、車線変更できないと逃げ場が無くなってしまうからだ。
道路上には抜きにくい運転をする車両というものがいて、その周辺に集団ができ上がってしまう。いっぽう、その集団の前後には、ガラガラの空白地帯がある。道路上の車両の分布は、疎と密が縞状に繰り返している。そこで、なるべく空いている地帯を長く走るようにすれば、安全を保つことができる。
まとめると、1.速度一定のなかにもメリハリを。2.密集しない。3.譲り合いの精神……である。
時代の変化で労働環境も変わって来るだろうが、いつの時代にもドライバーとして重要なことは、プロフェッショナルな運転や荷扱いの技を磨くこと、事故に遭わずに荷物を無事に届けることだろう。
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