10月末に開催された「ジャパントラックショー in 富士スピードウェイ2025」に出展したアリソンジャパンは、会場で中型トラック向け9速AT「アリソン2900」シリーズを日本で初公開した。
アリソンのフルオートマチックトランスミッションは高いドライバビリティをもたらすことで知られ、路線バスや特装トラックを中心に広く採用されている。では、今回お披露目された9速ATの狙いとは何か?
文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部
燃費性能だけじゃない!! 9速ATの恩恵
アリソンジャパンは、中型トラック向けトルクコンバータ式9速AT「アリソン2900」シリーズをジャパントラックショー(in富士)で初公開した。同ATは2023年頃に量産化を開始した米・アリソンの新しいフルオートマチックトランスミッションで、欧州ではすでに搭載実績もある。
新型ATは、現行の6速ATから9段へと多段化し、6速を直結とする3つのオーバードライブギアを設定。レシオカバレッジ(変速比幅=最も低いギア比÷最も高いギア比)は、同じ許容トルククラスである「アリソン2000」シリーズ比で50%以上拡大し、燃料消費率が低くなる低回転域をさまざまな走行シーンで維持できるようにした。
さらに、従来は採用されていなかった1速ロックアップを新たに設定。積極的なロックアップ制御でトルクコンバータのスリップロス低減も図られた。
これらにより、新型ATでは従来比最大10%の燃費改善が実現されている。
多段化の効果としては、ステップ比(隣接するギア比の比率)を小さくでき、変速時のエンジン回転数の落差が抑えられる点も大きい。
上表を参照してほしいが、現行ATよりも1速/2速、2速/3速のステップ比が小さくなっており、加速で重視される低速〜中速域の、よりスムーズな変速が可能になっている。なお、0〜48km/hの加速性能は従来比約10%向上を謳う。
さらにギア比が深くなったことで、出力トルクは従来比10%増加。GVW(車両総重量)も15000kgから25855kgに引き上げられた。また、エンジン側からの許容トルクは895Nmから1220Nmへ拡大している。
加えて、特装車のPTO作動時などで安全性向上(自走事故予防)に寄与するPレンジは、ケーブル式セレクターの採用によりパーキングロックポール(トランスミッション内の歯車にかみ合うロック)の「抜け」を改善。従来のGVW11.8トン車までに対しGVW13.6トン車まで設定可能となっている。
カーゴ系へ展開!? 9速ATの導入に向けた課題も
いっぽうで、多段化に伴ってプラネタリーギアセットは従来の3つから4つに増え、トランスミッションの全長は約110mm延長、重量は約27.3kg増加する。
このため、ペイロード(積載量)を重視するユーザーにはデメリットになるほか、車両側では長くなったことでクロスメンバーに干渉しないよいうなレイアウト調整が必要となるケースもあるなど、9速ATの設定車種については車両メーカー側の判断も難しい。現時点で国内向けの搭載車種はまだ未定となっている。
また、9速ATには積載量や勾配に応じて1速→3速→5速→7速といった変速を行なう「スキップシフト」機能が備わるが、日本の燃費測定ではこの変速パターンが認められていないため、国内向け車両での活用は難しいという課題もあるようだ。
とはいえ、9速ATは燃費・走行性能の向上やGVW拡大など多くのメリットがある。主対象であるカーゴ系は、現在アリソンAT車の設定がなくなってしまっただけに、新型ATで復活を期待したいところだ。
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