軽自動車の急激な進化によって、車内の質感などがグンとアップしている今日。ところが軽自動車は薄利多売。
あまり売れすぎても、登録車を扱うメーカーは困ってしまうという痛し痒しの事情もある。
そこで登場したのが、ボディが小さく、車内は広々という「プチバン」と呼ばれるクルマたちだ。スズキソリオが開拓したこの市場に、ダイハツ/トヨタのタンク&ルーミー軍団が宣戦布告!
文:鈴木直也、渡辺陽一郎、ベストカー編集部
写真:池之平昌信
初出:ベストカー2017年1月10日号
ダイハツ トール/トヨタ タンク&ルーミーの素性は?
(ベストカー編集部)
全長3700㎜、全幅1670㎜、全高1735㎜というボディサイズ。まさにスズキソリオにがっぷりとぶつけてきたダイハツ トール/トヨタ タンク&ルーミー。ご想像のとおり、ベースとなるのはパッソ/ブーンである。
……ということで、少々心配があった。というのも、パッソ/ブーン、正直に言って乗り心地や操安性に粗さを感じている。で、こいつは全高が1735㎜と高くなっているうえにスライドドアを採用するプチバンだ。
重心が高くなったところに持ってきて、ボディの開口部は大きく、室内空間も広くなっている。乗り心地や操安性、さらに室内騒音などあらゆる条件が不利なのだ。
ところがどっこい。走り出してビックリ!! 室内の質感、操舵時のフィーリングなどグンと上質に仕上げられている。
路面からの入力に対してもわりとスムーズにいなしてくれて乗り心地に突き上げ感など感じることもない。フロアがビシッと剛性高く、ボディもカッチリ組み上げられている印象なのだ。
1LのNAエンジンは69㎰/9.4kgmという数字とは思えぬ動力性能で、撮影時の移動では大人3名が乗っていたのに発進加速など不満なし。「こりゃ、街乗りだったらターボいらないね~」などと移動中に話をしたほど。
そのあとターボに乗ったら「おおっ、やっぱりこっちのが気持ちいいね!!」となるんだけど、NAでも実用上不満を感じることはないと思う。
後席に座ると足元、頭上の余裕たっぷりで、6対4分割で前後240㎜スライドするので荷物もたっぷり積めるので、使い勝手も上々。NAモデルで「スマアシ」付きなら152万8000円~という価格で、買い得感ありだ!!
迎え撃つ、スズキソリオハイブリッドはいかに?
(鈴木直也)
最近のスズキはパワートレーン関連の技術革新が実にアグレッシブ。
ワゴンRなど最多量販車である主力軽自動車をほぼすべてマイルドハイブリッド(S‐エネチャージ)化したのをはじめ、1.2LのNAなどではツインインジェクター(デュアルジェット)を採用。
さらに、バレーノでは1L直噴ターボ+6AT、アルトターボRSでは5速AGS(シングルクラッチAMT)など、ものすごいペースで新技術を導入している。と驚いていたら、今度はソリオにフルハイブリッドが登場だって!!
開発エンジニアの皆さんが過労死しないか、他人事ながら心配であります。冗談はさておき、このまったく新しいスズキ独自のハイブリッド、シンプルかつユニークというところに僕は大いに惹かれました。
■5速AGSと組み合わせているのがポイント
基本的な構成は1.2L直4のK12Cに5速AGSの組み合わせがベース。このミッションの出力軸側に、10kW のコンパクトな駆動モーターが追加されている。
ご存じのとおり、シングルクラッチAMT最大の欠点は、シフトアップのたびにトルクが途切れて「カックン」となること。
同じMTベースのオートマでも、DCTはクラッチを2組もつことでこの欠点を解消してスムーズなシフトを実現しているが、機構が複雑でコストが高くなる。
ソリオハイブリッドは、この「カックン」となるトルクの谷を、モーターで埋めてしまおうという発想。クラッチを切ってシフトしている間、瞬間的にモーターの駆動力が立ち上がって、シームレスな加速感が持続する。
もちろんそれだけではなく、発進時や加速時にはモーターがエンジンをアシストすることでドライバビリティが向上するし、減速時にはエンジンを止めてバッテリーを回生充電。
2㎞程度の短距離ならEV走行だって可能だ。実際に走ってみると、いやーメカ好きのオタク心をくすぐる面白さがありますね、このハイブリッドシステム。
また、標準のマイルドハイブリッド仕様はCVTだけど、こちらはMTベースなので駆動系にダイレクト感があるのも好ましい。
さすがに全開加速では駆動モーターのトルク(3.1kgm)が不足してトルクの谷が埋め切れなくなっちゃうけど、実用的には必要十分。制御ソフトの開発はたいへんだったと思うけれど、予想以上にスムーズでエレガントに仕上がっている。
もうひとつ、ECOモードを選んでおくと信号待ちなどで停止した際にブレーキから足を離してもアイドル停止が持続するのもよかった。
燃費性能はもちろん注目のポイントだけど、この辺の静粛でスムーズなところも大きな魅力で、標準のマイルドハイブリッド仕様と比べると、ひとクラス上の高級感がある。
結局いま「買い」なのはソリオに限る
(渡辺陽一郎)
プチバンはすべてファミリー向けだが、各車種が独自の特徴を備え、使用目的に応じて選べる。
高齢者のいる世帯では、助手席の乗降性が優れたポルテ&スペイドが便利だ。キャンプに出かけたり、たくさんの荷物を積んだり車中泊を楽しむならフリードプラスが使いやすい。
しかし単純に4名で乗る場合、ポルテ&スペイドは左側のドアが1枚のスライド式だから乗降時に不便だ。フリードプラスではムダなスペースが生じて価格も高くなる。
そこで候補になるのがソリオ、トール4姉妹車、キューブ。キューブはソファ風のシートと和風の内装が特徴だが、8年前の発売だからそもそもの設計が古い。
緊急自動ブレーキも付かず推奨度が下がる。そうなるとソリオかトール4姉妹車だが、後者は走行性能と乗り心地に不満が多い。
根本原因は手近な材料を使い、約2年間で開発したことだ。プラットフォームはパッソ&ブーン用だから、補強を施すにも限界があった。
1トンを大幅に超える背の高いボディを支えるのは難しい。エンジンも今のダイハツでは国内の小型車用が3気筒1Lのみになる。
自然吸気は少し高回転型で、車両重量のわりに実用回転域の駆動力が乏しい。1Lターボは実質的に新開発だから時間との戦いを強いられ、2000回転付近のノイズを解消できなかった。
いっぽう、スズキは顧客の需要に応えてソリオを淡々と開発した。全長と全幅を抑えて最大限度の室内を備える。
軽自動車と同様に現行型はプラットフォームを大幅に刷新して軽量化を徹底させ、車両重量はトール4姉妹車よりも120㎏軽い。
2種類のハイブリッドをそろえ、時間を費やして作り込んだ。商品力に差が生じた背景には、ダイハツの立場もある。
主要顧客は軽自動車ユーザーとトヨタだ。後者のニーズに応えるため苦労があり、トール4姉妹車の開発も、同様の苦労がある。開発者と話をしていると可哀想に思えた。
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