1996年まで現役を続けたシュペール・サンク
その成功を背負って登場することになった2代目のシュペール・サンクは、“上手くいってるものはやり方を変える必要がない”を地でいくような、完全なキープ・コンセプトだった。
初代サンクの小粋なイメージを綺麗に踏襲しながらゼロからデザインしなおしたのは、ランボルギーニ・ミウラやカウンタックなどを手掛けたことでも知られるマルチェロ・ガンディーニ。人々の心を集めるのが巧みなデザイナーだった。
もちろん中身の方も変えるべきとことは変えながらも築き上げてきたものを捨てたりはせず、刷新と熟成を矛盾なく寄り添わせた作り。全体的なレベルアップを果たしながらも、サンク特有の乗り味をしっかりキープした出来映えのいい小型ハッチバックとして高い評価を得た。
サンクもシュペール・サンクも、ルノーにとってもファンにとっても、忘れることのできない大きな存在なのだ。
ならば、デ・メオCEOが“なるべく多くの人に手の届きやすい価格を実現させる”というふうにはっきりと市販化を明示した、次世代のサンクはどうなのだろう?
サンク・アルピーヌも復活!? 新型はフィアット500を復活させた辣腕が指揮
そのスタイリングは、サンクにもシュペール・サンクにも競技車両だったサンク・ターボにも、似てるといえばよく似てる。が、じっくりと観察していくと、元ネタからそのまま持ってきたような部分はなく、かつての名車達の特徴的なモチーフを巧みにアレンジしながら組み合わせつつ、全く新しくデザインされたものであることが判る。
“初めて見るのにどこかで見たことがあるような”と感じたのは、そうした高度な技術によってデザインされた造形だから。シンプルでクリーンでどこか小粋なイメージは、紛れもなくルノー・サンクのそれである。
それでいてノスタルジーにばかり走ってるわけじゃなく、新しいクルマとしてのまとまりのよさを感じさせる辺りはさすが。
懐かしいディテールを発見して感涙する僕達のようなオヤジ世代や熱心なマニアにも、そんなの関係ないからとにかくスタイリッシュなクルマが欲しいという若い世代にも、自然に受け入れられるスタイリングだろう。
少し前まではグループPSAのデザイン部門のひとつの柱でありながら昨年秋にルノーへと移籍してきたジル・ヴィダルと彼のチームが関わっているようだが、なるほど、と思わされるものがある。
他にも細かく観察していくと語れることはあるにはあるけれど、逆をいうなら観察して判ること以外は何ひとつ判らない、というのが現状。
まぁプロトタイプなのだから、というよりもおそらくデザイン・スタディに近いものなのだから、仕方ないといえば仕方ない。
ピュアEVであることは明らかにされているものの、パワートレーンがどうなるかなどの具体的なアナウンスは今のところ何もない。
“メガーヌeヴィジョンとか同じアライアンスの中にある日産アリアが使う217ps/300Nmの前輪駆動用がここにも使われるのか?”だとか、“ちょっと待て、アルピーヌがBセグのホットハッチを作るっていうことは、これをベースにした新しいサンク・アルピーヌも復活するんじゃないか?” だとか、想像を膨らませることを楽しみながら待つしかない。
でも、何となくいいクルマになるんじゃないか? という気がしているのは、これを牽引してるのがルカ・デ・メオ氏その人だから、かも知れない。
彼は以前、フィアット・グループに在籍し、当時のセルジオ・マルキオンネの右腕として、世界的に有名な歴史的名車であるフィアット500の復活と市場導入を大成功に導いたり、アバルト・ブランドの復活にも大きな役割を果たしてきたという経歴を持っているのだ。
かつての古巣はもうひとつの──ピュアEVとしてのフィアット500をデビューさせ、すでに高い評価を受け始めてる。アイコンとしての大きさの違いこそあれ、サンクの注目度だって、欧州では日本人の一般的な人達が思っているほど小さなものじゃない。
マーケティング戦略の巧みさで知られるデ・メオCEOなら、この新しいサンクも間違いなく成功に結びつけるんじゃないか?
疫病収まらず気持ちが沈みそうになる昨今だけど、おかげで何だかとっても気持ちがワクワクしてきた2021年新春なのだった。
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