販売現場を悩ませた現行ヴィッツ
しかし、2010年に発売された3代目ヴィッツには落胆させられた。
ホイールベースをさらに伸ばして後席と荷室を広げたが、内外装の質、乗り心地、ノイズが全般的に悪化したからだ。2008年に発生したリーマンショックの影響で、過剰なコスト低減を強いられ、商品力に悪影響が生じた。
特に直列3気筒1Lエンジンを搭載する14インチタイヤ装着車は、エンジンの透過音が大きく乗り心地は粗い。ネッツトヨタ店のセールスマンが「これでは先代型のお客様に、乗り換えを提案できない」と悩むほどだった。
それでも発売直後は好調に売れたが、2011年12月にハイブリッド専用車のアクアが登場すると、ヴィッツは顧客を奪われた。2012年と2013年は、登録台数が2年連続で20%近く減少している。
アクアとプリウスを下まわり、2014〜2016年にはヴォクシーにも抜かれた。2017年にハイブリッドを加えたが、遅きに失した印象が強かった。
また、この時期には、トヨタ車全般のフロントマスクが変更され、ヴィッツも2014年と2017年に顔立ちを大きく変えた。ボディ側面の形状は基本的に同じだから、外観のバランスが悪化している。
新型ヤリスは「ヴィッツの反省に基づく車」
ちなみに2010年頃までのトヨタは、自社製品よりも販売台数の多いライバル車を許さなかった。
そのためにフィット包囲網も生まれたが、今のトヨタはライバル車に優しい。よいことのように思えるが、実際は他メーカーの天敵が不在になって緊張感が緩み、商品開発力と国内販売が低迷する一因になっている。
新型ヤリスは、3代目ヴィッツの反省に基づく車だ。開発者は車名をヤリスに変えた理由に、3代目の需要が従来型からの乗り換えにとどまり、新規顧客を獲得できず売れゆきを下げたことを挙げている。
そこで新型ヤリスは、走行安定性、乗り心地、操舵感、内装の質などを向上させ、名誉挽回に乗り出す。ヤリスを皮切りに、再びトヨタ車の商品力を高め、日本のクルマ界に緊張感を蘇らせてほしい。
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