トヨタのスポーツモデル「GR」の中核である86。2024年は年間で8802台を販売し、カローラースポーツよりも売れているのだから、2ドアスポーツとしては十分な実績を残している。今ではトヨタ販売店からも大切に扱われるクルマとなった。しかしながら86のデビュー当時は、トヨタディーラーからとても嫌われていたのを知っているだろうか。86が稀代の嫌われ者から、大切なスポーツカーになるまでのサクセスストーリーを振り返っていこう。
文:佐々木 亘/画像:トヨタ、SUBARU、ベストカーWeb編集部
【画像ギャラリー】意外と苦労人だった? 86が現代スポーツカーの代表格になるまで(15枚)画像ギャラリー仕事にならなかった初代86のデビュー当時
トヨタブランドとしてはMR-S以来のスポーツカーであり、ネッツ店以外は5年以上もスポーツカーを扱ってこなかったところに、初代86が投入される。時は2012年、東日本大震災から約1年後の日本は、まだまだ景気回復の兆しすらなかったころだ。
メーカー側、特に豊田章男社長は、86に並々ならぬ思いを持っていたに違いない。熱い思いは販売現場にも伝わっていたが、販売現場の目はいたって冷静で「実利に繋がらないスポーツカーをどう扱うか」の対策が練られていた。
現場の心配は大的中だった。自動車メディアでも大きく取り上げられ、話題性は十分すぎるほどあったのだろう。それ故に、86には試乗希望者が殺到することとなる。土日はもちろんのこと、平日もひっきりなしに試乗希望者が現れ、これに同乗するだけで営業マンの1日が終わってしまうのだ。
一般的な試乗ならば商談へとつながり契約が取れるかもしれないが、86の試乗にやってくるのは、ほとんどが記念目的。試乗対応を営業マンがしていたのでは利益にもならないので、事務職や管理職が代わりに同乗することも多かった。それでもお店が回らなくなってくると、店頭に置いてあった86を裏に下げ、「現車は無い」と来店客を帰すこともあったほどだ。
以降、物珍しさが収まった1度目の改良期(2014年4月頃)まで、86はトヨタ営業マンが最も嫌いなクルマの一つとなっていた。
MCでトヨタ車になった86とそれを受け入れたトヨタディーラー
嫌われ者の潮目が変わったのは、初代モデルがマイナーチェンジを迎えた2016年だ。MC前よりも落ち着いた乗り味に進化した86は、兄弟車BRZとも大きく違った乗り味へと変化し、「トヨタとスバルの共同開発車86」から、「トヨタの86」へと進化した。
MC前はOEMモデルを扱うような対応だったトヨタディーラーも、トヨタ色へと変わった86を少しずつ受け入れ始める。
86を本気で取り扱い、本気で売り始めて分かったことは、86に好んで乗る人が大のトヨタファンであるということだった。これは86ユーザーが、トヨタディーラーの大ファンになる可能性があることを意味している。
2010年代初めからトヨタディーラーでは、新規顧客の奪い合いではなく既存客の囲い込みを中心にした営業活動に切り替えた。つまり、新規購入よりも代替(トヨタ車からトヨタ車への買い替え)を、より重視するようになったのだ。
この営業活動で大切なのは、トヨタのファンをお店のファンにすることである。ファンはファンを連れてきて、ファンの輪を広げる。ファンから紹介を受けて買ったユーザーも、またファンになり、少しずつシェアが拡大していくのだ。86はこの営業活動の軸になった。
トヨタディーラーは86を大切に扱い、86オーナーに喜んでもらうことでファンが生まれる。86オーナー向けのイベントなどを多く開くことで、86オーナーが別のスポーツカーに乗っていたユーザーを連れてきて、86が売れる。これを営業サイクルにしていくことで、トヨタディーラーのファンが瞬く間に広がっていったのだ。
この好循環は86の販売だけでなく、他車種の販売にもつながっていき、トヨタ販売店のファン作りは、2020年頃までに一定の成果を上げることとなる。トヨタディーラーは86に新たな価値を見出し、販売の邪魔者はファン作りと紹介営業の軸へ変わった。
新型発表時から販売現場の評価が180度変わるクルマも珍しい。現行型は2代目となり、さらに86の魅力を高めた。86が年間1万台以上コンスタントに売れるようになったとき、日本におけるトヨタの販売力は揺るぎないものとなり、他メーカーを寄せ付けないものとなるだろう。
86とトヨタディーラーの今後の動きに、要注目だ。
コメント
コメントの使い方邪険にしてたの、見る目が無い販売員&店だけですよ
贔屓店では、店長も営業も「こういうモデルは売れなくても絶対必要なんですよ」と大歓迎して
試乗目的の人も含め客入り増えたことを利用し、パーツ販売やそのカタログ積極活用で、新たな販路を次々展開してました。イベントも大幅に増えてましたね
変化を楽しみ活かすのも、訝しんで出遅れるのも、店次第。こういう変化はまたあるので、次は柔軟に対応して頂きたい