セリカGT-FOUR以来、20年ぶりにトヨタが作った4WDマシンが「GRヤリス(プロトタイプ名 GR-4)」だ。WRCのホモロゲーションモデルは、随所に”スペシャル”を手に入れ、モンスターモデルとして登場した!
まずは2020年1月10日から6月30日まで、「ファーストエディション」(7月から商談開始)の事前受付を実施。カタログモデルとなるGRヤリスも、2020年8月に登場する。
試乗した自動車評論家から「切れ味バツグン」との評価を受けるGRヤリスだが、実は”隠しダマ”があることがわかった。今回は、WRX STIやランエボも驚く新世代スポーツ4WDとなったGRヤリスのポテンシャルと、気になる隠しダマの詳細を紹介していきたい。
※本稿は2020年1月のものです
文・写真:ベストカー編集部、国沢光宏
初出:『ベストカー』 2020年2月26日号
【画像ギャラリー】新世代スポーツ4WD「GRヤリス」の内外装をチェック!!
■WRX STIもランエボもぶっちぎる! GRヤリスのポテンシャル
TEXT/ベストカー編集部
東京オートサロンでワールドプレミアとなったトヨタの「GRヤリス」はWRCで勝つために生まれたモデル。ヤリスと名が付くが、中身は完全に別物! その中身はモンスターそのものだった。本題に入る前に、なぜGRヤリスのようなホモロゲーションモデルが必要なのか? について簡単に説明しておきたい。
WRCにはベース車両から改造していいものとそうでないものがあり、高いポテンシャルを持つモデルを開発し、ホモロゲーションモデルとして申請すれば、それだけWRカーやその下のクラスとなるR5、R2といったモデルの開発に有利なのだ。
ただし、ホモロゲーションモデルとして認められるには、連続した12カ月間に2万5000台以上の生産が必要になる。だからGRヤリスは限定モデルではなく、カタログモデルであり、本誌がお伝えしているようにトヨタの元町工場に専用ライン(GRファクトリーという)を設け、熟練工が組み立てていく。そんなGRヤリス、どこがモンスターなのか見ていこう。
■ENGINE
専用開発の3気筒1.6Lターボ
G16E-GTSという型式を与えられたまったくの新開発エンジンは、3気筒ながら272psのハイパワーと37.7kgmのビッグトルクを生む。ヤリスWRCは4気筒の1.6Lだからイメージは繋がるが、なぜ3気筒なのか? ひとつは軽さのため、もうひとつは、3気筒は排気干渉がなく中低速トルクが出しやすい特性に加え、ターボの高性能化でハイパワーも手に入れることができるようになるからだ。
新開発のエキマニ一体型のIHI製シングルスクロールターボは熱ダレがなく、伸びやかな加速を見せる。なおインタークーラーは水冷式ではなく空冷式。これはラリーにつきもののクラッシュ時の修復を考えてのこと。配管がある水冷式は作業の手間が増えるからだ。なお、アイドリングストップも装着される。
■CHASSIS & BODY
シャシーとボディも専用設計となる
GRヤリスはフロントがストラット、リアがダブルウィッシュボーン、プラットフォームはフロントがヤリスと同じGA-Bで、リアがカローラなどと同じとなる。これは、新型4WDシステムの搭載に加え、強靱な足回りが必要だからだ。
さらに、ボディはルーフにCFRP(炭素繊維強化プラスチック)と呼ばれるカーボン素材、ボンネット、左右のドア、トランクリッドをアルミ製として軽量化。わずか1280kgに車重を抑えている。これはスバル「WRX STI」に比べて210kgも軽く、おかげでパワーウェイトレシオは4.71kg/psとWRX STIの4.84kg/psを下回る。つまりWRX STI以上の強烈な加速が予想されるということだ。
■4WD SYSTEM
センターデフのない電子制御カップリング
ベストカーでおなじみの「竹ちゃんマン」こと竹平素信氏が、『みんなの駐車場』のコラムでセンターデフか否かを気にしていたが、GRヤリスはセンターデフのない電子制御カップリング4WD。開発陣によれば、センターデフ式も一時考えたが、重くレスポンスがよくないという理由で、多板クラッチ内蔵の電子制御カップリングが選ばれた。「スポーツ4WDはセンターデフ」という考えは捨てなければならないようだ。
プロトタイプに乗った時の印象は、アクセルを踏むとけっこうリアが出るというもの。しかも、ステアリング修正時のレスポンスがいいから、運転が楽しい。
なお、GRヤリスはNORMAL(前60・後40)、SPORT(前30・後70)、TRACK(前50・後50)というトルク配分がセンターコンソールのスイッチで選べ、昨シーズンまでトヨタのワークスドライバーだったタナックはSPORTモードで走った時が最もタイムが速かったとか。
また、今回発売となったRZはオープンデフ、RZハイパフォーマンスには前後にトルセンデフが装着される。
■SURPRISE MODEL
GRヤリス CVTコンセプト
オートサロンの会場にひっそりと置いてあったもう1台のGRヤリスは「CVTコンセプト」を名乗り、FF。GR SPORTの位置づけになりそう。1.5LNAとCVTのラインナップはノーマルのヤリスにもあり、直列3気筒DOHC1490ccで120ps/6600rpm、14.8kgm/4800〜5200rpmと発進ギア付きCVTだ。
ただし、ボディはターボと同じものを使うというから1トンを切るかも知れず、キビキビした走りが楽しめそう。モータースポーツ初心者にうってつけのモデルだ。
■隠しダマの競技車ベース車両を手に入れWRCに出場したい!!
TEXT/国沢光宏
オートサロンで正式発表されたGRヤリスを見ていたら、GAZOOの人から「何台お買い上げいただけますか?」と聞かれた。そのほか、ラリー関係者や読者の方からも「オーダーしましたか」。う〜ん! 私ってGRヤリスを買う人に見えるんだろうか? まぁ見えるんでしょうね! というか、買わないでどうするってクルマですよ。スバルや三菱自動車に対し、こんなクルマを作ってほしいとお願いし続けてきましたから。
長い前置きになりました。ファーストエディションのオーダーを入れたかと聞かれたら「入れてません」。なぜなのか説明したい。まずGRヤリスを買ったなら、当然のごとく競技に出たくなる。いや、必ず出ます。出るからには、相応のリザルトを残したいところ。勝てないのに競技に出てもツマらん。MIRAIやリーフで競技に出るのは性能を引き出すため&ガソリン車と比べた時の実力をチェックするためだ。
今回発表されたGRヤリス、競技車両のベースモデルは発表されなかった(2020年8月の発売までには発表予定)。競技に出ようとするなら、レギュレーションを守らなければならない。
もし「インタークーラーウォータースプレー※をあとから付けたらダメ」というレギュレーションなら、ファーストエディションの上級グレードを買わないとならない。その場合、BBSのアルミなど豪華装備はすべて不要になってしまう。トルセンのLSDだって競技には使えない。
※編集部注:インタークーラーウォータースプレーとは、インタークーラーに水を霧状に噴射し、蒸発する際の気化熱を利用して吸気温度を下げるシステム
さらに! 競技車両ベースはエアコンが付いていない(ベストカーが全日本ラリーに出場した86RCを思い出してほしい)というから、カタログ重量も軽くなる。競技に軽い状態で出られるワケ。
競技車両ベースは350万円を切るといわれているため、ファーストエディションの上級グレードより100万円くらい安くなる可能性があります。だったら競技車両ベースを発売するまで待ったほうがいい。競技関係者の皆さんもスッピンのGRヤリスが発表されるまで待ちだと思う。
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