SUVの電動化の先駆者としての存在感
今後の三菱自について、現在の販売台数の推移から日産との提携の陰に隠れてしまうのではないかとも思われがちだが、独自の存在感や商品力を示す余地があるのではないか。
SUVの電動化は一つの道であり、このことは、日産から三菱自へ行き、技術担当の副社長を務めた山下光彦氏が、ある記者会見で次のような趣旨を述べている。
「日産時代にリーフでEVを経験し、その際はSUVに電動化は向かないのではないかと思っていた。だが、三菱自に来てみて、SUVでの電動化の可能性を教えられた」
三菱自は2012年にアウトランダーPHEVを商品化し、ことに北欧ではPHEVとしてもっとも販売台数を伸ばしてきた。また、発売から8年の間に改良が何度も施され、走行性能や燃費の向上が続けられてきている。
英国では、ランドローバー社のディフェンダーがエンジンでモデルチェンジをしたが、三菱自はアウトランダーPHEVでアジアパシフィックラリーレイドに参戦し、パジェロでのダカールラリー参戦は終了しているが、PHEVでの過酷な競技への出場を行うことで、SUVの電動化の可能性をさらに探っている。
ドイツのメルセデスベンツは、SUVでEVの商品化をまず始めた。日産も、昨年の東京モーターショーでSUVのEVであるアリアコンセプトを公開している。
そうした電動化の先駆者として、三菱自はこれまでの知見を存分に活かせるだろう。
バッテリーへの充電をどうするかという課題が一つあるかもしれないが、未舗装の滑りやすい路面で駆動力制御を行ううえで、エンジンよりモーターの方がおよそ100分の1の速さで的確な微調整が可能であり、姿勢の安定性や走破性などを高度に行える潜在能力を秘めているからである。
アウトランダーはEVでなくPHEVであるものの、駆動の基本はモーターで行っており、EV走行に通じる。
埋没してしまうことのない三菱の強みとは?
加えて、三菱は、昨年から『三菱ドライブハウス』の取り組みをはじめた。
これは、ワンストップで太陽光発電やVtoH(ヴィークル・トゥ・ホーム=EVから住宅への電力供給)の購入と住宅への設置、その後の管理保守をまとめて行える仕組みであり、EVを単に排ガスゼロの移動手段として購入するだけでなく、生活全体の環境対応に組み入れやすくする取り組みである。
VtoHは、日産が東日本大震災後に取り組み始めているが、太陽光発電など含めた生活の中へEVやPHEVを取り組み、しかもそれを消費者がクルマの販売店という一つの窓口ですべて手続きできることを、三菱自は早く実現したことに意義を覚えている。
これは、増岡浩氏が語った、三菱車に乗ることによる安心が、生活全般の安心へも広がることを意味する。
そのうえで、ほぼ同じ時期にEVの市販を始めた三菱自と日産が、EVとVtoHの知見と、顧客からの反応などを情報共有し、さらに販売数を伸ばしていくことにより、低価格で手続きの手間もかけず、移動+生活の排ガスゼロ化が普及拡大していけば、社会のEVに対する認識も大きく変わっていくだろう。
それは、どちらかの会社がどちらかに飲み込まれるのではなく、まさしく相乗効果として提携の価値を高めていくことにつながるのではないか。
国内販売台数でいえば、日産と三菱自を合計しても、トヨタの数に遠く及ばない。
しかし、互いの力を合わせ、うまく協調していくならば、次世代を切り拓く強い力になっていくのではないか。
一つに、NMKV(日産・三菱・軽・ヴィークル)による軽自動車の取り組みが実績を上げている。埋没してしまうことのない強みを、三菱自はまだ持っていると考える。
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