三菱自動車工業のカーラインナップをWebサイトでみると、SUVが筆頭で登場し、アウトランダー、エクリプスクロス、RVRと並ぶ。
次にミニバンのデリカD:5。そして、コンパクトカーとなって、デリカD:2、ミラージュ、i-MiEVがあり、以下は軽自動車だ。これらのうち、デリカD:2は、スズキソリオのOEM(相手先ブランド商品)である。
かなり車種を絞り込んだ様子がうかがえる。2019年の年間販売台数は4万6474台で、国内乗用車8メーカーで7位の成績だ。
トヨタからレクサスを切り離すと、レクサスと比べてもやや下回る台数である。それでも、対前年比で101.2%となっており、100%超えはトヨタと三菱自の2社だけだ。
車種を絞り込みながら、その分野で着実に消費者をとらえている様子がうかがえる。
今後三菱自がどこへ向かうのか? 日産との提携により日産のサブブランドとなってしまうのか? といったことについて考察していく。
文:御堀直嗣/写真:MITSUBISHI、NISSAN、池之平昌信、中里慎一郎
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SUVと電気自動車に原資を集中
三菱自は、現在、商品の方向性を、SUVと電気自動車(EV)に絞る方向にある。これは、2008年の中期経営計画『ステップアップ2010』の商品戦略において、軽・小型乗用車、中型乗用車、SUV商品群への選択と集中が述べられており、あわせて、業界に先駆けてのi-MiEV市場投入が記されている。
現在の商品構成は、そこから中型乗用車が抜けているが、ほかはほぼ戦略を継続した状況にあるといえるだろう。
2000年代前半のリコール問題から復活を期し、黒字体質を取り戻しながら、次への成長へ向け選択と集中を行い、三菱自がもつ技術を活かすことのできる商品群を構成するとの趣旨である。それが今日も継続されている。
この間、軽自動車での燃費偽装問題を契機に日産との提携が2016年に行われた。
SUV戦略のなかで、2005年に誕生したアウトランダーはさっそく好評を博し、2012年からの2代目ではプラグインハイブリッド車(PHEV)を加え、これが現在の商品ラインアップの筆頭となっている。
アウトランダーPHEVを構成する基になったのは、2009年から法人向け、2010年から一般の消費者向けに発売を開始したEVのi-MiEVの部品である。軽自動車のEVの部品が、3ナンバー登録車のSUVに応用できるという驚きも世に示した。すなわち、EVの構成要素は車格を超えるということだ。
三菱自の4WD技術の優位性
SUVとしての基本性能が確保される背景にあるのは、もちろんパジェロの存在である。
1982年に発売されたパジェロは、三菱が米国のウイリス・オーバーランド・モータースからのノックダウン生産を1953年に始め、その後1956年から完全国産化した三菱ジープの経験を活かした4輪駆動技術の知見から生まれたレクリエイショナル・ヴィークル(RV)である。
4輪駆動車については、トヨタや日産も永い歴史を積み上げてきたが、三菱自の技術は、その後、ランサーエボリューションへも活かされた。さらにクルマの旋回性能を高める電子制御技術とともに、独創の進化を遂げていく。
パジェロ自体は、昨2019年で国内の販売を終えているが、三菱自の4輪駆動技術と、電子制御により旋回性能を高める技術や知見は、今日のSUV商品群のなかに脈々と受け継がれているといえるだろう。
ライバルの追従を許さないデリカD:5
SUVの枠組みからは外れるが、デリカD:5も、他のミニバンと異なり三菱自が培ってきた4輪駆動技術を最大に活かした一台として差別化できている。
三菱自のイベントで登場する登坂体験のキットカーでは、パジェロやアウトランダーと同様にデリカD:5も45度に及ぶ急斜面を登り降りする。
あるいは、悪路走行を体験するオフロード場で、モーグルと呼ばれ4輪の左右前後2輪が交互に接地し、残りが宙に浮いたコースをD:5は走破できるだけでなく、途中でスライドドアを開けても車体がよじれない剛性を備えるなど、本格的4輪駆動車と同様の悪路走破力を持つのである。
三菱自の独自の4輪駆動技術を活かしたこうした商品について、2002、2002年にパリ~ダカールラリーで2度優勝した経験を持つ増岡浩氏は、「世界的な気候変動により、万一の災害にあったとき、自分のクルマを置いて帰るか、自分のクルマで家に帰れるかの違いが三菱車にある」と、表現する。
EVの強さとそれがもたらす安心感
三菱自がもう一つの柱とするEVは、そうした災害でもエンジン車以上に安心をもたらす可能性を秘めている。
たとえば、リチウムイオンバッテリーの搭載により重量が増すこと、またリチウムイオンバッテリーを床下に搭載することで低重心であることにより、水没した道路でも車体が浮かび上がりにくく、水たまりの途中で停止してしまう懸念が少なくなる。
エンジン車が水没して停止してしまう理由は、排気管から水が逆流して排気できず、エンジンが止まってしまうからだ。EVなら、そもそも排気管を持たない。
もちろん、水没した道路を走っても平気だということではなく、基本的には避けるべきだが、やむをえない状況においてはエンジン車に比べEVは災害時に強みを発揮できる要素を備えるのである。
当然ながら、そうした水没した道路での走行実験を自動車メーカーは行っており、感電の心配はない。
SUVの電動化の先駆者としての存在感
今後の三菱自について、現在の販売台数の推移から日産との提携の陰に隠れてしまうのではないかとも思われがちだが、独自の存在感や商品力を示す余地があるのではないか。
SUVの電動化は一つの道であり、このことは、日産から三菱自へ行き、技術担当の副社長を務めた山下光彦氏が、ある記者会見で次のような趣旨を述べている。
「日産時代にリーフでEVを経験し、その際はSUVに電動化は向かないのではないかと思っていた。だが、三菱自に来てみて、SUVでの電動化の可能性を教えられた」
三菱自は2012年にアウトランダーPHEVを商品化し、ことに北欧ではPHEVとしてもっとも販売台数を伸ばしてきた。また、発売から8年の間に改良が何度も施され、走行性能や燃費の向上が続けられてきている。
英国では、ランドローバー社のディフェンダーがエンジンでモデルチェンジをしたが、三菱自はアウトランダーPHEVでアジアパシフィックラリーレイドに参戦し、パジェロでのダカールラリー参戦は終了しているが、PHEVでの過酷な競技への出場を行うことで、SUVの電動化の可能性をさらに探っている。
ドイツのメルセデスベンツは、SUVでEVの商品化をまず始めた。日産も、昨年の東京モーターショーでSUVのEVであるアリアコンセプトを公開している。
そうした電動化の先駆者として、三菱自はこれまでの知見を存分に活かせるだろう。
バッテリーへの充電をどうするかという課題が一つあるかもしれないが、未舗装の滑りやすい路面で駆動力制御を行ううえで、エンジンよりモーターの方がおよそ100分の1の速さで的確な微調整が可能であり、姿勢の安定性や走破性などを高度に行える潜在能力を秘めているからである。
アウトランダーはEVでなくPHEVであるものの、駆動の基本はモーターで行っており、EV走行に通じる。
埋没してしまうことのない三菱の強みとは?
加えて、三菱は、昨年から『三菱ドライブハウス』の取り組みをはじめた。
これは、ワンストップで太陽光発電やVtoH(ヴィークル・トゥ・ホーム=EVから住宅への電力供給)の購入と住宅への設置、その後の管理保守をまとめて行える仕組みであり、EVを単に排ガスゼロの移動手段として購入するだけでなく、生活全体の環境対応に組み入れやすくする取り組みである。
VtoHは、日産が東日本大震災後に取り組み始めているが、太陽光発電など含めた生活の中へEVやPHEVを取り組み、しかもそれを消費者がクルマの販売店という一つの窓口ですべて手続きできることを、三菱自は早く実現したことに意義を覚えている。
これは、増岡浩氏が語った、三菱車に乗ることによる安心が、生活全般の安心へも広がることを意味する。
そのうえで、ほぼ同じ時期にEVの市販を始めた三菱自と日産が、EVとVtoHの知見と、顧客からの反応などを情報共有し、さらに販売数を伸ばしていくことにより、低価格で手続きの手間もかけず、移動+生活の排ガスゼロ化が普及拡大していけば、社会のEVに対する認識も大きく変わっていくだろう。
それは、どちらかの会社がどちらかに飲み込まれるのではなく、まさしく相乗効果として提携の価値を高めていくことにつながるのではないか。
国内販売台数でいえば、日産と三菱自を合計しても、トヨタの数に遠く及ばない。
しかし、互いの力を合わせ、うまく協調していくならば、次世代を切り拓く強い力になっていくのではないか。
一つに、NMKV(日産・三菱・軽・ヴィークル)による軽自動車の取り組みが実績を上げている。埋没してしまうことのない強みを、三菱自はまだ持っていると考える。