2020年7月20日をもって受注を終了したというニュースがあったスバルBRZ。そうなれば、双子といっていいトヨタ86も近いうちに販売終了となるだろう。
というのも86もBRZと同じく、スバルの群馬製作所本工場で生産されているので、BRZが生産終了となる以上、86も近いうちに生産は終了するはずだ(86の生産終了記事については現在調査中で、近日中に詳細を報告)。
現行型を締めくくるといういま、これまで歩んできた2台を振り返ってみたい。
双子とはいえ、違ったテイストを持っていた86とBRZは、最終的にどんな違いを生み出していたのだろうか?
文:橋本洋平/写真:TOYOTA、SUBARU、池之平昌信、平野学、青山勝己、ベストカー編集部
【画像ギャラリー】86/BRZの8年間にわたる地道な切磋琢磨の歴史をフラッシュバック!!
デビュー時の86はドリフト志向
思い返すこと8年前の2012年春。その頃の話題といえば、86とBRZの走りは一体何が違うのか? ということに注目が集まっていた。
基本コンポーネントは変わらずだったが、足回りだけは独自の考えがあり、セットアップの方向性が異なっていた。
86はドリフトを意識した仕上がりであり、フロントサスペンションを柔らかく設定。ブレーキングをすれば即座にフロントが沈み込み、それをきっかけにしてリアが滑り出すような仕立て方だった。
そこにプリウス譲りのさほどグリップの高くないタイヤが組み合わされることで、誰もがテールスライドを味わえるようなフレンドリーな仕立てだったことを思い出す。
副産物としてフロントからの入力が軽減されており、マイルドな一面もあった。
デビュー時のBRZはリアの安定性を重視
対するBRZの考えはFRレイアウトであろうともリアの安定性を失わないようなセットアップだったと感じる。必要以上のノーズダイブを嫌い、86に比べればフロントのスプリングを硬めにセット。
結果としてスタビリティは86に比べて高かった。けれども、それでスライドコントロールができないわけじゃない。乗り手次第ではBRZであっても振り回すことは可能だったし、むしろ高速コーナーではBRZのほうが高い次元でのドリフトが可能だった。
ひとつ面白かったのは、BRZは全車バッテリーが大きかったこと。86で言うところの寒冷地仕様が標準だった。高いスタビリティと寒冷地を考えた設定は、さすが4駆マニアのスバルが造ったFRなのだと妙に納得できるところがあったのだ。
ビッグマイチェンでも初期コンセプトを踏襲
ともに年次改良を果たし、次々に粗さが取れてくる印象があったが、最も激変したのは通称E型と呼ばれたビッグマイナーチェンジだ。
エンジンパワーの向上やファイナルギアの変更、さらには足回りのセットアップなども見直しやスタビリティコントロールの介入の仕方までが改められ、どの領域でもリニアさが増していたことが印象的だった。
さらに外観は意匠変更も行われて洗練されたが、実はこの時にともに注力したのが空力だ。そこでも興味深かったのは、ともに注力した方向性が初期モデルと同様だったことだった。
86はフロントのダウンフォースを増して操舵の効きを目指したかに感じられ、いっぽうでBRZはあくまで前後バランスを求めてスタビリティ重視としていたかに思えたのだ。
レースでも違いが顕著に現れた
こうした印象の違いは僕が参戦していたGAZOO Racing 86/BRZ Raceのエントラントからも聞こえてきた。高速コーナーがあるコースでは、86のほうがノーズの入りがよかったというのだ。
たしかにBRZが上位に食い込むのはダウンフォースをそれほど必要としないコースが多かった。
真偽のほどは定かではないし、同じセットアップで乗り比べをしたことがないので断定はできないが、いずれにしてもエクステリアの差は何らかの影響をもたらしていたことは間違いなさそうだ。
86GRはBRZ寄りのフィーリング!?
86とBRZの違いはコンプリートモデルにおいてもテイストが異なっていた。86ではGRMNというエンジンまでチューニングを施したモンスターが生まれたが、BRZと比較しやすかったのはシャシーチューニングを行った86GR。
対するスバルは同様にシャシーチューニングを行ったBRZ STI SPORTである。
86GRはステアリングラックブレースやリアメンバーブレースを追加。その上でザックス製のショックアブソーバーを追加したほか、対向キャリパーを奢っていた。
また、特徴的だったのは前後でサイズの異なるタイヤを装着していたことだ。フロント215、リア235をチョイスして17インチで仕立てていたのだ。
走ればリニアさが際立つフィーリングがありつつ、安定感を手にしていたことが印象的。ちょっとBRZ寄りになったかに思えた内容だ。レーシーでありながらストリートを許容するエアボリュームのあるタイヤとのマッチングが絶妙。
リアタイヤを太くしてスタビリティを生み出しながら、高速コーナーではフロントのダウンフォースで曲げて行ける仕上がりがあった。
また、ストッピングパワーも絶大であり、初期制動からシッカリと減速Gが立ち上がりつつ、踏力を抜く方向でのコントロール性も際立っていた。
STI SPORTはヤンチャになったBRZ
対するSTI SPORTはSTIの十八番といっていいフレキシブルVバーやフレキシブルドロースティフナーを装備。足回りはこちらもザックスを採用したが、専用セットとなっていた。
タイヤは前後ともに215サイズの18インチ。タイヤ銘柄はGRと同様のミシュラン・パイロットスポーツ4。GRに比べれば変更点はこれくらいで、リーズナブルに仕立てられていた。
しかし、走り始めればGRとはまるで性格が異なりハードな方向性だった。ロール剛性を高めてかなり引き締められた感覚であり、ハーシュネスも大き目の印象だったのだ。
もちろんそこには18インチの採用も要因としてあるだろうが、鋭さは際立っていた。どちらかといえば、フラットな路面を得意とするタイプだ。ドロースティフナーを装着したことで、ステアリングの切りはじめからのリニアさが備わっていた。
ブレーキは基本的な部分での変更はなく、あくまで踏力に応じてGが高められるイメージ。GRに比べるとフロントのダウンフォースは少なく、安定方向重視のBRZの考えは変わらず。
総じて言えることは、ちょっとヤンチャになったBRZ。ちょっと86寄りになったということかもしれない。
86、BRZとも違うテイストを生み出した
ともにまったく異なるアプローチを行い、頂上を目指した86とBRZ。切磋琢磨したこの8年は実に面白い戦いだったと感じている。
結果として近づいたかに思える2台だが、やはりどこか違うテイストを生み出したことは、日本車にとって、そして日本人にとって財産だったと感じている。
トヨタとスバルが持つ老舗の味が、最終的に86とBRZに確実に受け継がれている。
いまスバルは企業別平均燃費規制(CAF?)という壁が立ちはだかり、次期BRZを誕生させられないかもしれないという噂が出ている。
だが、そこを何とか乗り越え、これまで戦い続けてきた86とBRZの戦いを継続してほしい。互いの味を支持してきたファンを裏切らないためにも。