人気モデルが生産終了するのはなぜ? ヤマハ・セロー250の場合
2020年7月、ヤマハは35年に渡る歴史を持つセローの生産を終了している。225ccから250ccに排気量アップしながら生き長らえてきたこのオフロードモデルは、ヤマハの国内ラインナップではSR400に次ぐロングセラー。こちらも根強いファンが多い人気車種だ。
それが、「セロー250ファイナルエディション」を最後に生産終了となったのは、需要がなくなったからではない。新型車には諸規制への対応が課せられているからだ。
セロー250の場合、生産終了となった直接的要因は国際基準調和に基づくヘッドライトの保安基準改正と言われている。仮にヘッドライトを新基準に対応させたとしても、その後にはABS装着義務化、さらにはより厳しい新排出ガス規制も待ち受けており、総合的に判断したうえでの苦渋の決断だろう。
セロー250の2019年の国内販売台数は2550台でクラス8位(二輪車新聞調べ)。オフロードモデルでは唯一トップ10圏内に入る安定したセールスを記録しており、これがなくなると販売上の損失は少なくない。
SR400は、2018年型でヘッドライトの新基準に対応済みなので、生産終了の直接的な要因はABSの装着義務化だと思われる。2021年型のSR400はカラーリング変更のみという情報なので、生産できるのはABS義務化が適用される直前の2021年10月までとなるだろう。
SR400の2019年の販売台数は1609台のクラス4位(二輪車新聞調べ)とこちらも安定しており、ヤマハとしても規制がなければこのまま販売を続けたかったはず。だがABS装着や、その後の新排出ガス規制に向けて開発費をかけたとしても、それを回収できるだけの見込みがないのだろう。
グローバル展開に取り残された“ガラパゴスバイク”
スポーツバイクは今や、グローバルマーケットを視野に入れて開発するのが定石だ。日本や欧米諸国ではスポーツバイク市場が縮小の一途を辿っており、各国に特化したモデルを開発・生産することが難しくなっているのが実情である。
ヤマハも同じエンジン、同じフレームで多モデル展開をするというプラットフォーム戦略に力を入れており、開発の効率化に血道を上げている。
そこへきて、SR400はジャパンオリジナル。空冷ビッグシングルエンジンをキックで始動する伝統的ネイキッドは、確かに日本人の感性に寄り添う形で丹念に熟成を続けてきたが、世界的に見れば完全に「はるか太古の絶滅種」だ。
SR400は軽量・スリム・コンパクトなバイク造りを身上とするヤマハにとって開発の基準点とも言うべき大切な存在のはずだが、市場自体が大幅に縮小している今、ガラパゴスバイクを存続させるのは非常に難しい。
だが、バイクの原型のようなSR400が、メーカー本社のある我が国からアッサリと姿を消してしまうのはいかにも惜しい。どうにか世界に通用する商品にできないものか……と見渡すと、好例がホンダにある。
2017年に生産終了となったモンキー(50cc)は、従来の排気量の枠組みを捨て去り、125ccで復活を遂げた。生産国のタイでは「カブハウス」というカフェ仕立ての販売店網を構築し、ファッション性を打ち出した販売方法にトライ。
また、世界的に需要のある排気量にしたことによりヨーロッパや北米にまで販路を広げ、日本国内でも再デビューを果たしたのだ。
同じように、SRも世界で通用する枠組みに当てはめることで、存続の道も拓けるはずだ。
現在のパッケージをいったん白紙にして、軽量・スリム・コンパクトというSR400のエッセンスを貫きながら、世界中のライダーが乗りたくなるような新生SRとして再構築してほしいと切に願う。伝統を守り抜くのは、絶えざる革新だけなのだから。
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